韓国最大手の自動車メーカーHyundai(ヒョンデ)が日本に再参入してから3年。日本向けにはIONIQ 5とKONAを展開しているが、ここにニューフェイスのINSTER(インスター)が加わった。今回、実際に試乗できる機会があったのでレポートを残したい。
5ナンバーサイズでも充実の機能。フルフラットにシートを畳めて充実の車内空間も実現
ヒョンデ INSTERのサイズは全長3830mm、全幅1610mm、全高1615mmと5ナンバーサイズに収まる。これは日本でも人気車種のスズキ スイフト(ZC83S)の全長3845mm、全幅1695mm、全高1525mmと大きく変わらない。
INSTERは「軽車」(キョンチャ)という形式に当たる車両であり、韓国では税制面の優遇措置を受けることができる。このような理由から「韓国版の軽自動車」とも言われるが、車両サイズや排気量などは日本の軽自動車よりも大型だ。




運転席周りは今風の車らしい装備。ディスプレイサイズは上位のIONIQ 5よりも小さいが、情報表示には十分なサイズ。Android Autoを接続した際にややもっさりした挙動が気になったが、比較的快適な部類だと感じた。
インフォテイメントディスプレイの操作は物理ボタンでも操作できる。その下にはエアコンパネルがあり、こちらも物理ボタンでの操作となる。エアコン操作は物理ボタンのほうが簡単に調整できるという意見も根強いため、このような仕様は一般ウケが良さそうだ。


INSTERは近年の電気自動車らしく、電源供給性能も魅力。車内には3つのUSBポートを備えるほか、上位のloungeではワイヤレス充電パッドも備える。また、車内に100Vコンセントを備えており、V2Lアダプタ不要で電気を取り出せる点はうれしい。特にコンパクトカーサイズで電気ケトルや電熱毛布まで使える大容量のコンセントを備える安心感は他にない魅力だ。



コンパクトカーとしては車内空間が広い点もポイント。後部座席も前後する仕様なので、後席でも足元がゆったりしている。また、全シートがフラットに倒せる仕様となっているので、収容力もかなり大きい。キャンプ用具や自転車、長めの脚立なども楽々収容できてしまう。


INSTERに乗ってみる!EVらしいキビキビとした走り。コンパクトなボディで狭い道も怖くない
さて、コンパクトEVのINSTERを運転してみた。筆者は今こそBYD SEALに乗っているが、それまではスズキのスイフトに乗っていた。今回試乗したINSTER Loungeは85kwのモーターを採用し、馬力換算で115ps、最大トルク147N・m。動力配置はFWD、いわゆるFF車となる。
短い試乗時間だったが、スポーツモードならキビキビとした動作を楽しめ、エコモードではマイルドな走りも可能。この手の車両としてはトルクのあるパワフルなEVらしい走りを体感できた。回生ブレーキは5段階の強度で設定可能。最も強い設定では停止まで行えるので、アクセルのワンペダルで操作することができる。下り坂でもエンジンブレーキをかける感覚で利用できた。
車両感覚としてはINSTERはスイフトなどのコンパクトカーに近く、狭い路地でも難なく運転することができた。全幅1610mmのボディは、日本の路地裏といった狭い道でも安心して乗ることができる車両だと感じた。
車両の各装備も充実。前車追従型のクルーズコントロール、レーンアシスト機能をはじめとした運転支援機能を装備。最上位のLoungeではシートヒーターに加え、ベンチレーションにも対応。この他にも電動開閉するサンルーフを備えるなど、コンパクトカーながら機能はかなり充実している。
電気自動車らしい静粛性にも優れており、コンパクトカーとしてはかなり静かな車内空間を提供できている。オーディオの質も価格帯を考えれば十分すぎるクオリティを純正でも楽しめる。



そしてINSTERの強みはEVとしての基本性能の高さだ。ベースモデルのCasualで42kWh、上位のVoyageとLoungeは少し大容量の49kWhのバッテリーを採用。航続距離はWLTC値でそれぞれ427km、458kmとしている。ここは航続距離が200km前後の軽EVにはない大きな利点だ。
そして、充電性能もしっかりしている。INSTERは普通充電に加えてCHAdeMo方式の急速充電に対応し、最大90kWの受け入れに対応している。バッテリーは20%から80%まで約30分で充電できるとしており、これで300km以上走行できる電気を溜め込める。バッテリーのプレコンディショニング機能も備えており、温度管理も適切に行えるため、熱ダレによる充電速度低下も起こりにくい。

価格は200万円台の5ナンバーEVが登場。日本メーカーも追従してほしい
日本でEVを検討するにあたってあまりなかった車両がINSTERの「5ナンバーサイズの車両」だ。日本での先行事例としてFiat 500eがあったが、こちらはWLTC値の航続距離が335kmとやや短いこと、充電規格の仕様に少々難があった。これに欧州車らしい価格設定(450万円〜)もあり、あまり売れているとは言えなかった。
お手頃という意味ではBYDのDolphinはコンパクトかつ、性能や価格面でもINSTERに近い存在。とはいえ全長が4290mm、全幅は1770mmと、こちらはINSTERをはじめ、コンパクトカーのスイフトやヤリスよりもひと回り大きい。幅的にも「3ナンバー」となる車両だ。
そんな中、韓国勢がINSTERという価格も手頃かつ、走行性能も十分な5ナンバーEV車両を日本で展開してきたことは非常に意味があるように思う。
INSTERの価格は最も廉価なCasualで284万9000円、各種装備が全て搭載されたLoungeで357万5000円だ。今回新しく投入されたアウトドアオプションを装備したCrossは372万9000円。普通車EVの廉価グレードが200万円台というのも驚きだが、これに政府のCEV補助金が56万2000円という形で実質値引きになる。

補助金を加味すると廉価グレードは220万円台と国内メーカーのコンパクトカー並み、オプション載せの最上位でも300万円の設定で輸入コンパクトカーと考えるとかなりお手頃になる。地域によってはこれに上乗せで補助金が加算されるため、補助金の手厚い東京都では、Casualなら200万円を切る価格で乗り出せる。

そんなヒョンデ INSTERは、今の日本市場において「隠れた高コスパEV」という独自のポジションを築きつつある。軽EVと3ナンバーEVの中間を狙った5ナンバーサイズのEVであり、手頃な価格帯と十分な実用性を兼ね備えている点が支持を集めている。実際に走らせてみると、航続距離や車体サイズのバランスが絶妙で、都市部から郊外まで幅広いシーンで“ちょうど良いEV”だと感じられた。
販売面でも成果が出ており、直近の7月にはヒョンデの登録台数の約8割がINSTERという数字が示す通り、同社の日本戦略を牽引している。コンパクトなEVを求めるユーザーに加え、日産サクラなどの軽EVからの乗り換え層にも確実に刺さっているのが特徴だ。軽EVでは物足りないが、3ナンバーEVは大型という層にとって、まさに最適解になっている。
それだけに「5ナンバーサイズ・400kmを超える航続距離・補助金込みで300万円クラスの価格」といった条件のEVが日本メーカーから投入されれば、市場に大きなインパクトを与えられるだろう。
総じてINSTERは、今はまだニッチに映るかもしれないが、確実にユーザーの心を掴んでいることが実感できた。価格・サイズ・性能のバランスを武器に、この「穴を突いたEV」が日本市場でどこまで存在感を広げられるか、追従してくる日本メーカーを含めてどれだけ市場を広げることができるのか。今後が楽しみだ。