これまで300台以上のスマートフォンを使ってきた筆者だが、今回ついに「買わない」と言いつつ手にしてしまったのがGoogle最新のPixel 10 Proだ。6.3型の明るいSuper ActuaディスプレイやMagSafe対応、最大100倍の望遠ズーム、AI補正を駆使した高度な写真編集など、スペックシート上はまさにハイエンド級。
一方で、独自SoC「Tensor G5」と新GPUの最適化不足からくるゲーム性能の低さや発熱など、気になる点も見えてきた。17万4900円という価格に見合う価値があるのか、実際に使って検証した結果を見ていこう。
高級感もアップ!ハイエンドスマホらしくなったGoogle Pixel 10 Pro
8月にGoogleの最新スマートフォン「Pixel 10シリーズーが発売となった。早い時期の発売はiPhoneなどを意識したものと思われる。日本市場では円安の影響をモロに受けてしまい、価格は大きく高騰してしまった。それでもなお、魅力的な製品なのかチェックしていきたい。
今回も標準モデルのPixel 10とに加え、上位モデルのPixel 10 Pro、Pixel 10 Pro XLの3種類が展開される。これらの違いは基本的にメモリ搭載量、カメラ構成、画面性能、端末サイズだ。今回筆者はPixel 10 Proをチョイス。望遠カメラを備える大画面の上位モデルだ。スペックは以下の通り
SoC:Google Tensor G5
メモリ:16GB
ストレージ:256/512GB
画面:6.3型 WQHD+ OLED
LTPO技術を用いた可変リフレッシュレート
カメラ
メイン:5000万画素 f1.68
超広角:4800万画素 f1.7
望遠:4800万画素 f2.8
フロントカメラ 4200万画素
バッテリー:4870mAh
ワイヤレス充電、リバース充電に対応
Pixel 10 Proは基本的に純粋なPixel 9 Proの後継機に当たる。サイズ感や価格設定からもiPhoneでいう「Pro 」に相当するポジション。特徴として後述する強化されたカメラ性能が挙げられる。Tensor G5という独自チップを使ったAI 処理をはじめ、高度な画像処理を駆使したまさに本気で作ったスマートフォンを感じる。
上位モデルのPixel 10 Proは、6.3型のAMOLEDパネルを採用。Super Actuaディスプレイと呼ばれるもので、最大輝度が2200ニト、ピーク輝度は3300ニトと従来よりも明るく、高品質なディスプレイが採用されている。スムーズディスプレイと称する1〜120Hzの可変リフレッシュレートにも対応しており、消費電力も抑えられたとしている。



指紋センサーは引き続き超音波式を採用。この方式によって認識速度や精度が従来よりも上がり、より快適に利用できるようになった。その一方でガラスフィルムとは相性が悪いことが多く、フィルムを選ぶ際には「指紋認証対応」といった表記のあるものを選ぼう。
大きな変化はマグネット式のワイヤレス充電に対応した点だ。高速なワイヤレス充電に対応しただけでなく、iPhone向けのMagsafeアクセサリーが利用できるようになった。一方で、マグネットが入った関係もあって本体重量は増加。小型のPixel 10 Proでも207gと重量級になってしまった。


OSにはAndroid 16を採用。ローンチデバイスという特成上、最新OSはアプリによってはうまく動作しないものもあるが、この辺りは時間が経つに連れて改善されていくと考える。
望遠性能とAI機能がより強化。AI補正で綺麗に撮れるPixel 10 Pro
Pixel 10 Proシリーズの強みはカメラ性能だ。筆者も近年のスマホを買うなら、まずカメラ性能からというくらいには注視している。Pixel 10 Proは前作同様の3眼構成。メインカメラが1/1.3型サイズの5000万画素、5倍望遠と超広角カメラは1/2.55型の4800万画素とスペック的にはPixel 9 Proと同じだが、プロセッサの刷新と100倍望遠に対応した。超広角カメラを含めた全カメラでオートフォーカスが利用できる。






何枚か撮ってみたが、AI処理が入るので必ずしも「見たまま」には映らないが、非常にきれいに撮影できる。
もともとPixelは高度なAI処理を得意とすることもあり、Pixel 9aなどの安価な機種でもそこそこ写ることで知られている。今回のPixel 10 Proは他社のハイエンドスマホでも採用される大型センサーを採用しているため、ハードウェアの基本性能の高さも関係しているようだ。




Pixel 10 Proでは超広角カメラのスペックが向上している。これによって撮影できる幅が広がることはありがたい。






Pixel 10 Proでは光学5倍相当のペリスコープ望遠レンズを搭載。10倍は1200万画素のロスレスズームも可能。AI補正を駆使して最大100倍望遠まで可能。
ズーム性能が高いだけでも今までのスマホとはまた違った写真が撮れる。ここに関してはXiaomiやvivoが海外で販売しているような製品と比較しても高いレベルで追従している。日本では販路も広く、比較的高い知名度をもつPixelでこのような商品が展開されることは嬉しい限りだ。




今回のPixel 10 Proシリーズは最大100倍望遠まで対応する。ズームレンジが広がったことはうれしいが、30倍以降は生成AIを用いたディテール補完が行われる。このため、被写体によっては必ずしも狙ったような補正とはならない点に注意が必要だ。







Pixelシリーズらしく夜景モードもしっかりと備えている。一部シーンで夜空にノイズが乗る場面が見られたが、多くのシーンできれいに撮影できる。三脚検知で自動的に切り替わる星空撮影モードもあるので、興味があるようなら使ってみると新たな発見もありそうだ。

独自SoCはTensor G5になってAI処理が進化。新機能のカメラコーチなども便利に使える
Pixel 10 Proに採用されるTensor G5ではAI処理の高さを売りにしており、恩恵として高精度な文字の書き起こしやリアルタイムで出力される翻訳機能、写真の画像処理エフェクトなどが挙げられている。リアルタイムの文字起こし、翻訳といった機能は、取材や海外渡航時に大いに役立っている。精度も前作より向上しており、多少早口でしゃべった内容もうまく読み取れるようになっていた。
「音声消しゴムマジック」は喧噪下でも特定の人間の声を強調し、それ以外をカットする機能だ。名前もさることながら、ボイスレコーダーとしてはとても有用すぎる機能だ。取材のお供にはもってこいだ。
写真撮影についても、前述の通り高度なAI処理によって綺麗な写真を撮影できるようにしている。今作では被写体の構図をアシストする「カメラコーチ」機能。ズームによって劣化したディティールを生成AIを用いて「補正」する機能も備わっている。




このほかの画像編集についてもフィルターや簡単なエディターのみならず、通行人を削除したり、手ブレしてしまった写真の簡易補正、ポートレートにおける光量補正といった「失敗すらリカバーできる機能」が備わっている。
引き続き大きくアピールしている消しゴムマジック、モーションフォトも面白い機能だ。Pixelの消しゴムマジックはより直感的に人物検知を行い、簡単に編集できる。従来から備える「ベストテイク機能」「編集マジック機能」「動画ブースト機能」といった新機能も機能面のすごさ以上に「何ができるか」にフォーカスされていて、利用者にとって分かりやすくなっている。
ベストテイクはフェイスグルービング機能を利用し、横を向いてしまった顔を正面に向けることができる。編集マジック機能は被写体を切り抜いたり、拡大縮小が可能。消しゴムマジックとは異なり、生成AIを用いて切り抜いた部分を塗りつぶすことができる。
動画ブースト機能は暗所で撮影した動画をクラウドベースで、再度ノイズリダイレクションや HDR 補正をかけるもの。スマートフォン単独では負荷のかかる処理をサーバーに担当させることで、負荷を分散させる狙いがある。まさにAI時代のスマートフォンだ。

Tensor G5のゲーム性能は微妙、CPUは健闘しつつも、GPU性能とゲーム最適化に難アリ
一方で、従来から指摘されるパフォーマンスの低さは、Pixel 9世代からはオンデバイスAIの処理速度、CPU処理を必要とする物に関しては部分的に改善している。 これはチップセットの改善がプラスに作用している。Pixel 10 ProにはGoogle が設計したTensor G5プロセッサが採用される。TSMCの3nmプロセスで製造されるこのチップはGoogleの意向が強く反映されている。プロセッサのコア構成は以下の通りだ。
Cortex-X4コア×1 @3.78GHz
Cortex-A725コア×5 @3.05GHz
Cortex-A520コア×2@2.25GHz
Tensor G5は近年のハイエンド向けプロセッサでよく見かける3クラスター構成となっているが、一部コアは旧世代のものもあり、TSMC 3nm製造の最新世代の製造プロセスながらちぐはぐ感は否めない。
GPUはImagination PowerVR DTX48-1536を採用。これが鬼門なようで、端末のGPUドライバの最適化不良に加え、コンテンツ側の最適化も一切追いつかないことから、ゲームとの相性が絶望的に悪い様相を呈している。コンテンツによってはPixel 7世代並みのパフォーマンスしか出ず、乗り換える価値を考えさせられる。

一方で同じ価格帯のスマートフォンと比較すると、パフォーマンス不足であることに疑いはなかった。実際にいくつかゲームをプレイしてみたが、3D表現を多用するゲームはかなり苦手と感じた。
ゲームでは原神が最高画質だとせいぜい30fps。最高画質の最低要求が「Snapdragon 8 Gen 3」という超高負荷コンテンツの「学園アイドルマスター」では1080p描写(高画質設定)で平均25fps前後、MV再生時で35fpsとかなり厳しい様相を見せた。
また、本体が熱を持ちやすいことが印象的だった。筆者も学園アイドルマスターを10分ほど遊んだところ、バッテリー温度が48℃と高温になったので、やはり設定を落とす等の対策は必要だ。


既出のベンチマークでは、Snapdragon 8+ Gen 1程度の結果が出ている。最新ハイエンド機に対してベンチマークスコアが劣る理由をGoogleは「アンビエントコンピューティングに力を入れているため」としている。
これは、単なるベンチマークスコアだけではなく、写真撮影の体験をより良いものにしたり、動画視聴やウェブ閲覧時の快適な動作やバッテリー消費を抑えるといった、日常的な動作を快適にするものを指している。同社としてはベンチマークアプリのスコアだけでは数値化できない体験も、より良いものにしていく考え方だ。
確かにこのような体験は「ベンチマークアプリ」では数値化し にくいものであり、Google のアピールする「アンビエントコンピューティング」も理解できなくはない。

ただ、このようなスペック不足な点は廉価な機種であれば多少目をつぶれるが、このスマートフォンは17万4900円であることを忘れてはいけない。この価格であればiPhone 17 ProやGalaxy S25 Ultraや新型iPhoneの上位モデルも視野に入ってくる。これらの機種からするとPixel 10 Proは大きくパフォーマンスが劣ることになってしまう。

使い勝手よし!スペック微妙!サポート長し!それでもPixel 10 Proに17万円の価値はあるのか
まとめになるが、Pixel 10 Proは単独でみれば非常によくまとまったスマートフォンだ。高いカメラ性能やAIを用いた高度な画像処理、リアルタイム翻訳や文字起こしをはじめとした強みを持ちながら、分かりやすさを重視した構成となっている点は評価できる。
今のPixelシリーズは日本でのマーケティングに特に注力しており、テレビコマーシャルにおいても「編集マジック」をはじめとした機能面をアピールしている。消費者に対して「この機能が使えるスマホ」での知名度アップを狙っており、ここは筆者も非常に高く評価している部分だ。
これ以外に強みと呼べる部分は、7年間というOSアップデート期間の長さだ。Pixel 10シリーズでは7年間のOS アップデート、セキュリティパッチ提供を明言しており、製品寿命はさておき「7年間は安心して利用できる」としている。これは中古市場での価値向上などにも影響してくる。日本向けにもiCreackedが正規代理店としてバッテリー交換等の修理サービスを展開するなど、長く安心して利用できるような仕組みを整えている。このような意味で選ぶ価値は大いにある。
IP68の防水防塵にもしっかり対応し、日本で需要の高いFeliCaにも対応する。販路についても、直販ストア以外に大手3キャリアが取り扱う。家電量販店やキャリアショップで実機を触って検討しやすいスマートフォンだ。
一方でPixelのブランディングの変化もあり、コストパフォーマンスの高いスマートフォンから「iPhoneやGalaxyにも引けを取らないスマートフォン」へ変化した。にもかかわらず、初手からクーポン値引きが入ったり、ストアクレジットが付与されることでハイソなブランドイメージを確立できていない。
これに加えて、前述のスペック不足な点が不満点として挙げられる。確かに17万円のスマートフォンを購入するとなれば、ある程度のスペックを求めてくる方も少なくない。Pixel 10 Proは競合他社の製品に比べると体感性能で明らかに劣っており、スマートフォンに対して基本的な性能の高さを求めるのであれば「Pixelはあまり選ばない方がいい」という結論に至る。
よく有識者は「最適化されていない。」「最新OS だからアプリ相性は仕方がない」と評価することもあるが、消費者からしたらそんなことは関係ない。特に前項の最適化について、Googleはハードウェア、ソフトウェア共に荒削り感ある状態で製品を出していることは否めない。
今回はハードウェアこそ高級感のある仕上がりとしたが、ソフトウェアには不安が残る。品質向上や荒削り感を抑え、全体的な完成度を高めていけば、より多くの消費者にとってプラスの方向に進化していくはず。筆者としては今のPixel 10 Proに17万4900円の価値があるのか?と問われたら「否」と答える。正直なところ、iPhone 17 ProやXiaomi 15 Ultraのような「この価格でも欲しいスマホ」には至れていない。
競合からスペックも一段劣り、iPhoneのようなハイブランドのイメージも希薄。Google公式ストアでは購入特典で3万8500円分のストアクレジットを付与するため、実質的に13万円台で購入できる。加えてGoogle Play Pointsのステータスクーポンで最大3万円引きになるなど、なりふり構わない値引き攻勢もしている。
この結果も踏まえると、Pixel 10 Proはストアクレジット付与後の13万円前後が妥当と筆者は考える。そもそもこのように思われる時点で、Pixelのハイブランド化戦略はある意味失敗にも思える。

最後になるが、価格に目をつぶればPixel 10 Proは長期のOSサポートと高度なAI 処理を売りにした体験重視の「Google にしかできないスマートフォン」に仕上がったと感じる。筆者も過去に色々なスマートフォンを使ってきたが、Pixel はかつての「アプリ開発者向けのリファレンスデバイス」から「AI性能を駆使した新たな体験を提供するGoogle のスマートフォン」に変わった。
単純な基本性能では他社のハイエンドスマートフォンに劣るところも多いが、それを超える音声文字起こしの精度や「音声消しゴムマジック」といった付加価値がある。動画ブースト機能も場面によっては魅力的だ。これらの機能に価値を見出せるのであれば、買いだと思えるスマートフォンだと思う。
長く愛着を持って使いたいスマートフォン。その1台としてPixel 10 Proを検討してみてはいかがだろうか。