電気自動車の普及とともに、急速充電器はますます高出力化している。150kW、200kW、さらには350kW級の超急速充電器も実用化に目処がたった。
ものの数十分で大容量バッテリーを半分以上充電できる時代になった。だがその一方で、ユーザーが実際に使ってみると気づく“意外なワナ”がある。
EV用の高出力な急速充電器はケーブルが重く、取り回しが悪い
高出力な充電器を使うとき、最初に驚かされるのがケーブルの太さと重さだ。従来の50kW級充電器に比べると明らかに太く、持ち上げて車のポートに差し込むだけでも結構力が要る。初めて持った筆者もその重さには驚いたもの。CV100SQケーブルを持ったかのような感覚で、コネクタを車両に繋ぐ際には手首がもげるかと思った。



ケーブルが重く、太い理由は単純で、大電流を安全に流すための設計にある。200アンペア以上もの電流を流すためには導体を太くする必要があり、その結果としてケーブルが重くなる。また、近年の高出力器は液冷機構を内蔵しているケースが多く、冷却用のチューブや液体が追加されることでさらに重量が増す。
EVの利便性を象徴するはずの高出力充電器が、実際には「取り回しが悪く、特に体力のない人や初心者には扱いづらい」という矛盾を抱えている。
実際、ケーブルをホルダーに収められず、充電器付近に散乱している理由もこのような実情からくるものと考える。マナーが悪いと思いつつも、理解できなくないところはある。
確かに電気系の仕事でもない限り、600V CV100SQ-3Cケーブルみたいな太さ、重さ(1mあたり3.5kg)の電線を扱う事はまずない。しなやかとは言えど、取り回しは良くないケーブルのため、一般の方にはかなりキツイと考える。、

改善策は高電圧化によるケーブルの軽量化。吊り下げサポートも欲しい
この問題を解決するには、単なる“軽量化”以上の工夫が必要だ。主に電気的なアプローチと物理的なアプローチに分かれる。
電気的なアプローチは大切だと思う。例えば、車両と充電器の間で電圧を高めることで、同じ電力量をより小さい電流で送れるようになる。電流が減ればケーブルも細く軽くでき、冷却の負担も減る。
実際、欧州や中国では800V級の高電圧アーキテクチャを採用する車種が増えており、充電器もアップデートしている。これは充電器のケーブル軽量化にも直結している。
日本では保安基準の関係から450V以上の充電器を設置することができなかった。一方で、令和6年に電気主任技術者が必要な自家用電気工作物における直流電路の対地電圧の上限が、1500V以下と明確化された。これによって日本でも350kW 1000V充電器の実用化に目処が立った。
コネクタの改良も考えられる。特にCHAdeMoと互換のあるChaojiはより小型軽量の次世代規格であり、高出力にも対応。10年スパンにはなると思うが、次世代規格を普及させればより細いケーブルでも安全に高出力を扱えるようになるだろう。
次世代規格への移行が難しいようなら、テスラと同じNACSコネクタに振り切ってしまうのもありだと思う。現行CHAdeMoの次の規格はChaoJiになるのか、テスラ系が強いNACSになるかは気になるところだ。

高出力な充電器が実用化されるまでは、物理的なサポートを付けるといった「負担を軽減する」アプローチも必要だ。すでに一部の充電ステーションでは、ケーブルを上から吊り下げるアーム構造やリール式を採用している。これによりユーザーは重さを意識せずに充電できる。
日本でも広く導入されれば、ユーザビリティは格段に向上するはずだ。 コネクタの改良 将来的には小型軽量の次世代規格や、接触抵抗の少ない端子構造が普及すれば、より細いケーブルでも安全に高出力を扱えるようになるだろう。

まとめ EVの急速充電器「速さ」の次は「使いやすさ」か
高出力充電器は、EVの航続不安を解消する強力な武器だ。しかしその一方で、現時点ではケーブルの重さという物理的な課題がユーザー体験を損なうこともある。
今後EVがさらに普及するためには、「どれだけ速く充電できるか」だけでなく、「誰でも簡単に扱えるか」という視点が欠かせない。高出力化と軽量化、そして使いやすさの両立。これこそが次世代充電インフラの課題であり、進化の方向性だと考える。

