電気自動車(EV)に乗り始めてまもなく7000km。前回は運用コストについて触れたが、今回は日々の充電を通じて見えてきた“急速充電器の現実”について紹介したい。EVが普及するうえで欠かせない充電インフラだが、実際に使ってみると操作性や課金方法など、課題も多いと感じた。
電気自動車初心者には分かりにくい「急速充電器の操作」
EV生活に慣れてきた今でも感じるのが、急速充電器の操作は初心者にとって分かりにくいという点だ。
その理由の一つが、UI(ユーザーインターフェース)が充電カードを持っているユーザーを前提に設計されていること。よく言う「認証方式」がこれであり、eMPやエコQ電といった車両を問わず利用できるものと、EVメーカーが自社車両向けに提供しているものに分かれる。
特にわかりにくいのが「認証方式」だ。多くの充電器はeMPやエコQ電といった共通ネットワークの会員カードをかざすことで利用できるが、非会員(ビジター)の場合はネットワークのシステム毎にクレジットカード情報を毎回入力する必要がある。車を停め、ケーブルを接続し、さらに数分間支払い手続きを行うのは、初心者にとってなかなかのハードルだ。
また、支払い方法がクレジットカード中心で、交通系ICカード、QR決済に対応する機器は少ない。現金払いは原則できないものが大半なので、セルフのガソリンスタンドのような利便性を期待するとギャップを感じるだろう。この点では、テスラのスーパーチャージャーが理想形に近い。ケーブルをつなぐだけで自動的に課金が始まり、充電が終わればクルマに紐づいたカードに請求される仕組みは非常にスマートだ
現在はクレジットカードの他、QR決済も利用できるFLASHなどの新しいネットワークも登場しているが、これらが利用できる充電器はまだ少数。eMPネットワークでもこの利便性の悪さに対し、アプリに事前登録した支払い情報で、ビジターでも情報入力不要で急速充電器を利用できる実証実験を行っている。これからEVがより普及していくためには、急速充電器における支払い方法の多様化やUIの改善が不可欠だと感じる。

急速充電器は設置場所の偏りで使いにくい場所も。高速道路は寡占化の課題も
利便性の面では、設置場所にも課題が多い。例えば、高速道路の急速充電器は、事実上eMPネットワークの寡占契約状態にあり、他のネットワークが入ってこれない状態。基本的に充電カードを使ってきたこともあり、価格競争やサービス改善が進みにくい構造になっている。
これは他社が新規参入しづらく、決済方法の拡充や柔軟な料金設定などをはじめ利便性向上につながらない。特にNACSコネクタを採用するテスラ車オーナーにとっては使える充電器が本線上になく、アダプタを介しての充電(速度制限、相性問題あり)か、一度高速道路を降りてスーパーチャージャーに立ち寄る必要がある。

一方で、新興ネットワークのFLASHなどは決済手段や操作UIが改善されているものの、補助金の影響からか設置場所が自動車販売店などに偏っている。筆者の地元にも設置されているものの、バイパス沿いのロードサイドの自動車販売店で周囲に商業施設はない。特に深夜は入りにくいこともあり、日常的に立ち寄りやすい商業施設や観光地などへの設置はまだ少ない印象だ。
また、国内の多くの急速充電器は「1施設に1基のみ」というケースが多く、充電待ちの対応や故障時のリカバリーが難しい。補助金の関係で商業施設はもとい、自動車販売店や電気工事事業者に充電器が設置されていることもある。このような施設は経路充電としても使いにくいものもあり、設置個所の関係から日常的にも立ち寄りずらいインフラも少なくない。
安心して利用できる充電インフラとしては、テスラのスーパーチャージャーのように、利便性の高いエリアに複数台の充電器を並設する仕組みを広げることが急務だ。行政としても、急速充電器を複数基設置する施設や事業者に対して補助金を手厚くしたり、電気料金を優遇したりするなど、量と質の両面で支援策を検討すべきだろう。
急速充電の難点。クルマとの相性問題と充電器は「いつもその速度が出る」とは限らない
7000kmほど走ってくると、急速充電器の難点にも気付かされた。常に表示されている出力が出るとは限らない点、道の駅といった公共施設でも整備が不十分で利用できないリスクをはらんでいる点。さらにはクルマとの相性問題まで存在することにも気づいた。
例えば「150kW対応」と記載されていても、実際には常にその出力が出ない場合もある。2台同時に接続すると出力が半減したり、機器の発熱によって出力が制限されたりするケースもある。
充電器の仕様(ブースト型や蓄電池型)をはじめ、設置場所の電力契約(デマンド制御)によっても制限がかかる場合があり、充電時間が読めないこともしばしばだ。
これでは150kWの充電速度を見込んでも、様々な要因でその通りに充電されない場合がある。充電が思うようにできなければ予定の変更を迫られる。
さらに厄介なのが、車両と充電器の“相性”問題だ。CHAdeMO規格といっても通信プロトコルは完全に統一されておらず、メーカー間で微妙に仕様が異なる。中には通信がうまくいかず、充電が途中で止まったり速度が出ない例もある。



また、充電器が故障して使えないリスクもはらんでいる。道の駅などでも設置から年数の経つ充電器の中には満足な整備もされず、故障されたまま放置されているものも珍しくない。
ガソリンスタンドのように危険物管理の関係からセルフでも必ず店員がいて、給油機が故障していても代替案まで含めて対応してくれることに対し、充電スタンドはほぼ無人のスポットが多く、故障やトラブルがあっても対処に時間がかかる場合が多い。
筆者自身、予定していた充電器が故障中で肝を冷やした経験もあり、「充電スポットは複数リストアップしておく」のが現実的な運用だと感じている。
車両によって不平等が生じやすい日本の充電インフラ
急速充電器の課題は、料金体系に潜む不公平だ。日本の急速充電器の多くは「時間課金制」を採用しており、充電にかかった時間で料金が決まる。この仕組みでは、充電性能が高い車ほど得をし、性能が低い車は損をする構造になっている。
たとえば、日産サクラ(最大30kW)とアリア(最大150kW)を同じ充電器で15分充電した場合、サクラは約7.5kWhしか充電できないのに対し、アリアは約37.5kWhも充電できる。両者とも同じ時間分の料金を支払うため、実質的に5倍の差が生じる計算だ。
一方でテスラのスーパーチャージャーやFLASHは充電した電力量で課金する従量課金式を採用。車両性能による充電料金の格差がない仕様だ。仮に1kWあたり44円のFLASHを用いて先ほどと同じ条件で充電した場合、サクラは330円に対し、アリアは1650円が請求される。こちらのほうが公平性が保たれている。

お得に使うには車両の受け入れ性能、充電曲線などを理解して使う必要があるが、そこまで気にしてEVに乗っている人はかなり少数。
また、前述のような充電器側の仕様で出力に制限がかかっていても「時間」で請求されてしまうので、特に高速道路で普及しているeMPネットワークは従量課金制にしてほしいものだ。
急速充電インフラに欲しいものは利便性と使い勝手の良さを求めたい
EVを7000km走らせて感じたのは、クルマそのものの完成度の向上に対し、急速充電器を用いた充電体験はいまだ発展途上だということだ。
特に急速充電器は操作UIのわかりづらさ、決済方法の限定、車両との相性、そして設置環境の不均衡や料金制度の不公平といった難点があり、どれもEVを日常の足として使う上で無視できない。
その点、課金システムはテスラのスーパーチャージャー方式は理想的だが、様々なメーカーが乱立するCHAdeMO勢では課金の仕組みを抜本的に見直す必要が出てくるので、数年での方針転換は難しい部分がある。
ただし、改善の兆しも見え始めている。eMPではアプリ連携による自動認証実験が進み、FLASHなど新興勢力も登場している。
EVが「特別な車」ではなく「当たり前の選択肢」になるためには、車だけでなく充電インフラそのもののアップデートが欠かせない。充電体験の改善こそ、EV社会の次のフェーズを決める鍵になりそうだ。


