「EVは走行コストが安い」
電気自動車オーナーの声や販売現場では半ば常識のように語られているが、では実際にどれくらい安くなるのかを、自分の走行データで把握している人は意外と少ない。
今回は、筆者が保有するBYD SEALで1万km走行した実測データをもとに、電気代ベースでの走行コストを整理しつつ、以前乗っていたガソリン車とも比較してみたい。

中国EV BYD SEALで1万km走行!かかった電気代は「約4.8万円」
まず、結論から。筆者の乗るEV(BYD SEAL AWD)で1万kmを走行するのにかかった電気代は合計で4万7892円だった。充電手段ごとの内訳は以下の通り。
eMP(ビジター料金):2万2390円
FLASH:5529円
イオン急速充電:700円
自宅充電:1万7473円
BYDディーラーでのバッテリーキャリブレーション充電:1800円
これを走行距離で割ると、1kmあたりの走行コストは約4.79円という計算になる。軽減税率撤廃でガソリン価格も安くなったとはいえ、この数字はかなりインパクトがある。
急速充電器の利用用途として、eMPネットワークは主に遠出した際の高速道路上での充電、FLASHは急ぎで容量回復したい際に使用。イオンの急速はイオンモールを目的地とした際の充電だ。基本的に日常的に利用したのではなく、遠出の際に利用した。
自宅充電は主に深夜電力を用いていたので比較的安く収まっている。環境によっては太陽光発電や家庭用蓄電池の併用。オクトパスエナジーといった新電力をうまく利用すればもっとコストは抑えられる。


正直、電費では不利なAWD仕様のSEALでこの金額だったので、航続距離が600km以上でより電費に優れるテスラのModel Sや新型の日産リーフ、トヨタのbZ4Xではさらにコストを抑えられるものと考える。
また、バッテリー量の少ない軽EVは充電頻度こそ増えるものの、消費した電力量的にはあまり変わらなくなる。電費ではAWD仕様の普通車より優れるため、こちらもコストを抑えられると考える。ガソリン車からEVに乗り換えると燃料費が抑えられることは間違いなさそうだ。
無料充電できるスポットの存在が、EVの運用コストを一段と下げる結果に
今回の1万km走行でコスト面に大きく影響したのが、経路上にある無料充電スポットの活用だ。近年は様々な理由で減少傾向にあるものの、活用できれば非常に強力な存在になる。筆者は以下のように利用していた。
50kW:28回
30kW:3回
90kW:2回
目的地充電(駐車場・普通充電):3回(無料)
特にありがたかったのが、通勤ルートの付近に無料の急速充電スポットがあった点。おおむね週1回のペースで利用し、一回の充電で160~180kmを走行できるだけの電気を蓄えることができた。そのため、日々の通勤で消費する電力はほぼここで賄えていた。
このようなスポットは無料ゆえに充電待ちが発生することも多いが、その時間は車内で原稿の執筆に充てていたため、体感的なロスは少ない。それ以外では市役所や道の駅での目的地充電、到着したコインパーキング等の駐車場の充電器を活用した目的地充電だった。結果として、無料充電だけで約5000km分の走行電力を確保できた計算になる。
仮にこれが有料スポット(eMPのビジター料金)だった場合はプラス5万円ほどの出費になってくる。それだと10万円前後の燃料費となるため、周囲にこのようなスポットがあるか否かで運用コストは大きく変わってくるのだ。

ガソリン車と比べると、燃料費は条件次第では半額以下
それでは、以前乗っていたガソリン車と比べるとどうなるか。前回乗っていたのはズズキ スイフト(4WD)仕様で実燃費:13km/Lの車両。タンク容量45リットル、ガソリン単価は160円/Lとして算出してみる。その結果は以下の通りとなった。
想定燃料費:約12万8000円(1万km)
給油回数:17回
今回のSEAL AWDの4万7892円と比べると、その差は8万円以上。燃料費は余裕で半額以下に抑えられたことになる。無料充電器を有料とし、自宅充電を高く見積もっても電気のほうがガソリンよりも2割ほど安くなる計算だ。結果としてEVはガソリン車よりも走行コストが安くなることが分かった。
充電も自宅充電がメインであれば、日常利用範囲なら急速充電器への寄り道は不要。一方で、ガソリンはどうやってもスタンドで給油しなければならないため、日々の通勤利用でも寄り道が必要になってくる。このあたりの余剰時間が生まれるメリットもある。
一方で、燃費に優れるハイブリッド車では燃料価格差、給油回数は少なくなる。車両の使い方や自宅の電力料金プランによってはほとんど差が出ない場面も十分考えられる。EVを検討する際は自宅の電力契約、周囲の充電器状況なども確認しておこう
駐車場等での目的地充電はガソリン車になかった感覚であり、都市部へ行く際は、意識的に充電設備付きの駐車場を選ぶようになった。ガソリン車同様に駐車料金はかかるものの、充電は無料のスポットも多く、用事を済ませている間に自然回復する。
また、コインパーキングも事前に予約しておけば、到着時にバッテリーの残量が少なくても「とりあえず停めておけば回復する」という安心感がある。

また、1万キロ走行したとなれば、ガソリン車であればエンジンオイルの交換といった油脂類のメンテナンスも必要になってくる。これらのコストもEVであれば抑えることができる(車検時のミッションオイルくらい)ので、運用コスト面ではお得に作用してくる。
EVの走行コストは充電環境を含めた「生活動線」で決まる
今回の1万km走行を振り返ると、1kmあたり約4.6円。一般的なガソリン車比で燃料費は半額以下となったが、筆者の場合は無料充電・目的地充電が大きなウェイトを占めた結果になった。
もちろん、誰が使っても同じように安くなるわけではない。しかし、通勤ルートや行動範囲に安価に利用できる充電スポットがうまく噛み合う人にとって、EVは走行コスト面で非常に合理的な選択肢になる。
「EVは車両価格が高い」というイメージは根強いが、走り始めてからの数字を見ていくと、その印象は少しずつ変わってくる。そのように改めて感じたレポートだった。




