電気自動車(EV)の長距離走行は「充電の計画」が命。航続距離に余裕があるクルマでも、充電器のトラブルひとつで状況は一変する。今回筆者は、BYDの電気セダン「SEAL AWD」で新潟から仙台までの往復約520kmに挑戦した様子をレポートする。
BYD SEALで新潟から仙台往復、500km超無充電の旅に挑む!その結果は
先日、筆者はBYD SEAL AWDで新潟から仙台までの往復ドライブに挑戦した。片道約260km、往復すると約520kmの長距離走行となるが、バッテリー容量82.5kWh・WLTC航続距離約575kmというスペックを考えると、無充電でも新潟市まで帰って来れる可能性があると踏んだ。
実際に走ってみると、高速道路を中心とした安定走行では消費電力も控えめで、往路は44%の余裕を持って仙台に到着。復路は夜間の下道メインで走行し、バッテリー残量に注意しながら走れば、理論上は無充電で新潟市まで帰れる計算だ。
過去にバッテリーを6%まで減らしても余裕を持って走れたことから、今回は1〜2%残しを狙っての旅程で挑むことにした。




充電を予定した超高速充電器「FLASH」はまさかの故障。最後はバッテリー0%に
今回、充電時間短縮のため、国道からやや遠回りして新潟市内にある超高速充電器「FLASH」を使う旅程を組んだ。CHAdeMOでは最大180kW級の性能を備え、充電器側で出力制限をかけないことが特徴。このため、SEALのような高出力対応車両では通常の急速充電器よりも早く充電ができる。
また、1kWhあたり44円の従量課金制を採用しており、コスト面でもお得に充電できる。当初は30分程度の充電で仮眠しつつ、300km分くらいは蓄えるはずだった。
しかし、到着してみると充電器の画面は真っ暗でフリーズ。稼働しているはずの設備が正常に動作しておらず、まともに利用できない状況にあった。EV充電器マップ上では正常動作とあったが、以前利用した方によるとゴールデンウィークの時点から不具合で正常動作していなかったという。
しかも、今回この充電器で充電する旅程を組んでおり、消費電力量の見込みをピッタリで計算。その結果、予定通りFLASH到着時点で車両のバッテリーは残1%。この時点で走行可能距離すら表示されない状態のため、充電器が使えないと分かった時は肝が冷える思いをした。


幸い4kmほど離れたコンビニにeMPの90kW級充電器があるとのことで、やむを得ず次の充電拠点まで走ることになった。最後は車両表示が“0%”になるギリギリで到着するというスリル満点の状況に。
ガソリン車の赤ランプ点灯時と同じとはいえ、電気自動車ではバッテリー残量が0%になると動作制限のかかる車種もある。これを考えると、走行中の0%表示は心臓に悪い。

今回の旅程において、SEAL AWDは535kmを無充電で走行できた。前回の大阪旅行に引き続き、改めて長距離でも安心して運転できることは実感できた。
消費電力の大きい急加速を控えたり、高速道路では速度を90km/h前後で一定に保つような運転をすれば、新潟→大阪間(約500km)や新潟から東京までの往復(約520km)も無充電でこなせるポテンシャルを秘めていることが確認できた。
肝は冷えたものの、BYD SEALでは0%になっても直ちに制限がかかることなく走行できることや、今回のような事態に備えて充電器のバックアップをピックアップしておくなど、運用面では貴重な収穫だったといえる。
最新の電気自動車なら長距離も安心して走れるが、充電器のトラブルによる旅程崩壊が課題
今回の経験から、BYD SEALの航続性能自体は非常に優秀で、電費で劣るAWD仕様でも500kmを超える長距離ドライブも問題なくこなせることが分かった。日本メーカーの車両をはじめ、バッテリーが5%を切ると制限がかかる車種もあるものの、SEALの場合は最後までしっかり消費することができること、0%になってもある程度走るという点では安心できた。
SEALの場合、満充電状態でも回生ブレーキが効くこと、今回のような表示が0%になっても、車内機能はなにひとつダウンすることなかった。加減速はもちろん、エアコンやADS含め制御ができた。このため、車としてのバッテリーのマージンは多めに取っているものと思われる。
ディーラーの話によるとBYDの車両はバッテリー残量が著しく低下すると「制限モード」に入るようで、この際はエアコンなどがオフになり、速度も最大で50km/hほどしか出なくなるという。今回はこの状態にまでは至らなかった。

一方で、現状のEV充電インフラでは、充電器の「稼働率」や「メンテナンス体制」が大きな不安要素となることを痛感した。予定していた場所で充電できないだけで、ガソリン車に比べてリカバーしにくいのだ。
今回のような長距離移動では、1基しかない充電器が故障し、稼働していないだけで簡単に旅程が崩壊しかねない。今回はたまたま近くに急速充電器があったからことなきを得たものの、最悪の場合は途中で電欠してレッカー移動の可能性もあった。
このほか、お盆や連休などのシーズンではサービスエリアや道の駅での充電待ちも見られる。BEV車、PHV車をはじめ、この手の車両が増えてくれば、充電待ちは潜在要素として残る。この充電待ちが旅程変更を生じる可能性のある不確定要素として残る。
世間では充電口の数を増やすことが叫ばれているが、それ以上に既存インフラの稼働率の向上、古いものや故障しているものは更新していくことも大切だと感じた。充電器を増やすにしても、利用者の利便性の高い場所に設置して欲しいもの。
実際。充電器マップには示されているものの、故障して利用できないものや施設の仕様などを理由に出力が制限されているものもある。
車の性能がドンドン上がる中、高出力の充電器の整備と同時に、既存の充電器のアップデートや利用できない箇所の復旧も必要になると感じた。

そのため、安心して走れるEV社会の実現には、ハードだけでなく“充電器を守る仕組み”も欠かせない。安心して長距離を走れる車両の登場だけでなく、充電器側も稼働率を上げるための定期点検や保守管理の徹底をはじめ、運用面の改善が求められると感じた。