政府が検討している「EVへの重量税」。しかしその理由として挙げられている「EVの重量が道路に負荷をかける」という説明は、現実と大きくズレている。
重量的には同じか、それ以上に重い車両はいくらでも走っているのに、なぜEVだけに新税を? EVオーナーの立場から、今回の議論がいかに歪んでいるかを整理したい。
重い車はEVだけじゃない。EVは既存の重量税との二重課税になるのではという指摘も
まず、重い車はEVだけではない。確かに筆者の乗っているBYDのSEAL AWDは2210kg(2.2トン)と、普通の車両より重たいのは事実。それ以外のEV車も軽自動車で1.2トン前後、普通車も1.7〜2トンのものが多い。
それではガソリン車やハイブリッド車は重たくないのだろうか。大型SUVのトヨタ・ランドクルーザー(300系)は2.5トンクラス、ハイブリッド車でもミニバンサイズのトヨタ・アルファードなどは2トンクラスだ。
今や大型SUV、ミニバンの大型の車体を持つ車両や、大きめのバッテリーとエンジンを両方搭載するプラグインハイブリッド(PHV)車など、2トン級のクルマはいまや珍しくない。

EVオーナーとしては、車両重量で課税するなら既存のクルマにも追加で課税しなければ不公平感は強い。EVは既存の車両重量税にプラスして新税とする見込みのため、事実上の二重課税みたいなものとなる。これはさらに不平等感は増し、既存のオーナーとしても懸念事項となる。
さらにいえば、トラックや路線バスは数十年前から議論に上がるEV乗用車よりも「遥かに重い車重」で全国を走り続けている。道路に負荷をかけているという側面なら、これら大型車の方が普通車の数十倍も負荷をかけていることが事実だ。
電動車に限ってもEVバス、EVトラックも採用が進んでいるが、もし重量そのものに比例した課税を徹底するなら、これらの商用車にも税負担がのしかかることになる。カーボンニュートラルなどの社会貢献を目的に、税制面での優遇でこれらを導入した事業者にとって、今回の課税案は反発する要素にほかならない。

課税案に自動車メーカーや業界団体は反対の姿勢をみせる
もちろん、政府がEVから税収を得たいというロジックは理解できる。ガソリン車と違い、EVは揮発油税(ガソリン税)を払わない。その分、将来の税収減が懸念されるという見方もわかる。
政府の見解もEV車は揮発油税を払わないことが、既存の内燃機関車オーナーから見て不公平感があるという点からきている。
また、EV普及を後押しするため、これまで多くの補助金や税制優遇が整備されてきた。自動車重量税の減免や自治体の自動車税減免など、EVオーナーがメリットを享受してきたのも事実だが、これも不平等感を加速させる理由だという。
その一方で、自動車メーカーや業界団体はEVへの課税に対しては時期尚早と、今回の課税案には反対の意向を示している。例えば自動車生産企業の業界団体である日本自動車工業会(JAMA)は、海外のEV課税を例に、EVの普及促進期は課税を行わなかったことを指摘。
日本におけるEVは新車販売比率にて1%と、まだまだ普及促進期にある。そのようなEV車に課税することは、普及台数比で突出して高い税負担になると反発している。
加えて、カーボンニュートラル実現に向け、EV普及促進が求められる時に、EVに対して増税を行うことは、 日本経済の成長力や自動車産業の国際競争力の低下に繋がるとも指摘。今やるべきことはEV普及を促す環境を整えること、一貫したカーボンニュートラル推進政策を進めることと指摘している。
また、税制面の優遇を用いて、自動車メーカーもEVやPHVを推してきたことも事実。購入時は補助金がつく、自動車税や自動車重量税も安い、新車での自動車取得税はかからない。燃料費もガソリン比較で安価になる。このようなセールストークを使って販売を促進している以上、EVに別途課税されるとなれば販売現場にはブレーキがかかる。
EVは車重が重い=課税はあまりに短絡的なのではないか。慎重な議論を求む
EVへの課税は長い目でみたら、いずれは必要になると思う。しかし問題は「課税のロジックの歪さ」である。
このような短絡的な構図は、実態を見れば必ずしも成立しない。むしろ「EVだけが重く、道路に特別な負荷をかけている」という、科学的根拠の曖昧なレッテル貼りになってしまっている。
もし「EVからも相応の税金を取りたい」というのであれば、手段はもっとシンプルであるべきだ。CEV補助金を段階的に縮小する、自動車重量税の優遇措置(エコカー減税等)を終える、自動車税の排気量による累進課税制度を見直す。これだけで政策目的は十分達成できる。
仮にも揮発油税に相当するものを取りたいのであれば、走行距離に応じて課税しなければ、不平等感は強い。
揮発油税の場合、補給した燃料の量に応じての課税なので、ある意味「走る車ほど課税される」仕組みだ。EVで提起されている「車両重量で課税」の場合、保有しているだけで課税と同義なので、いちオーナーとしては不平等感を感じてしまう。
十分な議論をせずに「新しい税をつくる」という発想は、官僚組織がよくやりがちな「制度を増やしたことで実績を作る」ための自己目的化に見えてしまう。
その一方で、JAMAの指摘する通り、今の日本は出荷台数比で1%のEV普及促進期にあたる。EVに対して課税を行っている地域は、JAMAのまとめでは普及率が5%を超えている地域しかない。これからジワジワとEVを普及させる段階の日本で、普及していない車両から課税を急ぐ必要性は感じられないのだ。
EVオーナーとして願うのは、EVだけを腫れ物扱いして増税の口実にするのではなく、将来のモビリティの姿を見据えたフェアな制度設計が行われることだ。
EVが日本の道路を特別に痛めているわけではなく、これを理由に課税を検討するのはあまりにも無理がある言い分だ。それよりも税徴収の仕組みそのものをどう改善するべきか。既存の枠組みに該当しないEVをどう公平性を持って扱うか。そこから議論を始めるべきだと思う。




