ファブレット再興の兆しか。Huawei Pura Xは“ズルトラ”の系譜を現代に描くスマホなのか

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 近年、スマートフォンの画面はどんどん大きくなっている。それでも「かつてのような大画面スマホがない」と感じる人も多いのではないだろうか。

 かつては「ズルトラ」ことXperia Z Ultraといった“ファブレット”が姿を消した今、その系譜を継ぐ存在として注目したいのがHuawei Pura Xだ。

目次

ファブレットとは何か。横幅80mmを超えた“手のひらサイズのタブレット”

 ファブレットというジャンルのスマートフォンがあることをご存じだろうか。“ファブレット(Phablet)”とは、Phone(スマートフォン)とTablet(タブレット)を合わせた造語で、一般的には横幅80mm以上の大画面スマートフォンを指すことが多い。

 かつてはGalaxy Noteシリーズがこのジャンルを構築していたが、6型以上のコンテンツ消費に特化した機種が登場して以降はもっぱらこれらの機種を指す言葉として使われた。
 大型化の関係から片手操作が難しい代わりに、広い表示領域と映像体験の迫力を兼ね備えたモデルとして2010年代中盤に人気を博した。

 代表的な例を挙げれば、ソニーのXperia Z Ultra(約92mm)、Huawei P8 Max(約93mm)、ASUS Zenfone 3 Ultra(約94mm)などがあり、今でもコアなファンの心をつかんで離さない製品たちだ。
 いずれも当時としてはスマホよりもタブレットに近いサイズで、ビジネス利用や動画視聴、電子書籍などに最適な「モバイルでの没入体験」を提供した。

2013年発売のXpria Z Ultra。のちに「ズルトラ」の愛称が根付き、これがファブレットの代名詞となるほどファンに愛されたスマートフォンだ

ファブレットが消えた理由とはなにか。スマホの大画面化と折りたたみの台頭

 では、なぜファブレットは現代のスマートフォン市場から姿を消したのだろうか。最大の理由は、スマートフォン自体の大型化とベゼルレス化にあると考える。

 ファブレットが登場した2010年代当時、6型クラスの画面を備えるスマホは「大画面スマホ」と呼ばれていたが、今では6.7〜6.9型が主流になった。

 その背景にはスマホのディスプレイが液晶パネルから有機ELパネルへと変化したことで、設計の自由度が上がったことが大きい。バックライト不要のOLEDパネルなら、かなり極端なベゼルレス化も可能になったことも挙げられる。

 このベゼルレス化により、2017年ごろの端末から徐々に画面の大きさと本体サイズの関係が変わりはじめた。2018年のiPhone Xs Maxの登場以降は「6型以上=大画面」という価値が薄れた。

 事実、2015年ごろに5.5型で販売されていたサイズ感でも、2025年では6.8型前後の大画面になってしまう。上下左右にあったベゼルの薄型化に加え、有機ELディスプレイでは画面内にインカメラを配置(パンチホール)することも可能になったため、画面占有率を90%以上に仕上げることができるようになった。

現代のスマートフォンには画面の上下左右の縁がかなり細くなっている

 さらに、折りたたみスマートフォンの登場も大きな転換点だ。2019年のGalaxy Foldを筆頭に、6年間の間に各社から折りたたみ機構を備えた端末が次々と登場。特にサムスンやGoogleは防水・FeliCa対応など日本市場特有の課題も解決し、従来のファブレットが持つ「大画面スマホ」の役割はFold型端末へと引き継がれた。

近年の大画面スマホはFoldタイプの折りたたみスマホが担う
技術革新もあり、現在は4mm代の薄さに仕上げることもできるようになった

 一方メーカー側もベゼルレスで7型級のスマホを再び作るよりも、8型前後のタブレットを「安価なコンテンツ消費端末」として展開する方針へとシフト。 

 日本で支持を得ていた「全部載せフラグシップ」だけでなく、廉価グレードにあった大画面スマホも、このジャンルに取り込まれてしまった部分がある。コロナ禍での「お家時間」が増えたことも少なからず影響していると考える。

 また、コンパクトなタブレット端末はハイエンド帯にも進出が見られた。2021年にはiPad miniの画面アスペクト比変更などもあり、ここ数年は8型クラスのタブレットの市場が活況になりつつある。

 現に日本でもREDMAGIC AstraやXiaomi Pad Miniといった高性能なiPad miniと直接競合するスペックをもつ機種が登場している。

8型クラスのタブレット端末も今では主流。画像はREDMAGIC Astra

 これらの複数の要因が重なった結果、横幅80mmを超える「純粋な大画面スマホ」は、2019年のHuawei Mate 20 X 5G(7.2型)、2020年のBlackShark 3 Pro(7.1型)を最後に姿を消した。どちらも日本で販売されなかったことから、わざわざ輸入してまで使う方も一定数おり、今でも根強いファンが多い端末だ。

Huawei Mate 20Xは「ファブレットの完成形」と評された機種だった
BlackShark 3 Proは冷却機構を備えたゲーミングスマホということもあり、重量も250g級と重かった

Huawei Pura X。新しい比率の折りたたみが再定義する“現代のファブレット”

 そして2025年、最後までファブレットを出し続けたHuaweiが投入したPura Xは、ファブレット衰退の流れに一石を投じる存在だ。

 Pura Xは折りたたみスマホながら、展開時の画面サイズは6.3型、アスペクト比は16:10、横幅92mmという大胆な設計を採用。一見珍妙なサイズ感だが、これこそまさにかつてのファブレットに近い横幅を持つ端末だ。

閉じるとコンパクトなサイズ
Pura Xは画面分割も可能
画面は6.3型。横幅が広いこともあり、思った以上に広く感じる

 多くのFoldタイプの折りたたみスマホでは、展開すると画面アスペクト比は正方形に近い。これは複数のアプリを同時に利用する用途には向いているものの、大画面での動画視聴では黒帯(余白)がでてしまうので、画面サイズよりも狭い印象を受ける。


 しかしPura Xは16:10比率のディスプレイということもあり、展開時には「横に広いスマートフォン」として振る舞う。画面比率がかつての16:9スマホに近いこともあり、コンテンツ表示時の余白もかなり少ない。

動画再生時も余白が少ない
Pura Xは電子書籍の閲覧にも優れる(『辺境ぐらしの魔王、転生して最強の魔術師になる』より)

 加えて横幅はXperia Z Ultraとほぼ同じ92mmであり、言うならば「ズルトラから画面だけ切り抜いた」端末と評価できる。

 Pura Xが登場した当初はなんとも形容しにくいサイズだったが、使っていくとこれは単なる折りたたみスマホではなく、「ファブレットを現代技術で再構築したデバイス」と感じられた。

Xperia Z Ultraと比較すると、Pura Xはかなり絶妙なサイズ感とわかる

 コンテンツ表示面積はかつてのXperia Z Ultraに匹敵しながら、折りたためばポケットサイズに収まる。Pura Xが形にした設計思想は、「手のひらでタブレット体験をしたい」というファブレット愛好者の願いを再び叶えるものだ。

“ファブレット難民”に未来。新しいサイズ感のスマホに期待

 ネット上ではいまもXperia Z Ultraの後継機を求める「ズルトラ難民」といった言葉が語られるほど、ファブレットには根強いファンが存在する。
 確かに横幅80mmを超える端末を好む層は一定数おり、特に動画再生時の有効面積の広さから動画視聴に限らず、ゲーム用途、電子書籍の閲覧用途では依然としてニーズがある。

 また、ある程度の年齢層になると老眼が進み、従来よりも大きく画像や文字を表示できる大画面のスマホを求める声も出てくる。大画面スマホはそのような意味でも需要はあるのだ。

 そうした中でPura Xの登場は、“ファブレットの再来”を感じさせる最もリアルな事例と感じた。もっとも本機種はAndroidスマホではないため、日本で使うにはかなり使いにくいのが実情ではある。

 その一方で、もしも他メーカーがこの方向に追随すれば、Fold/Flipに次ぐ「第3の折りたたみ」という新たなカテゴリーが生まれる可能性もある。

 折りたたみスマホでは王道のサムスンに対する差別化として、OPPOやシャオミがライバル端末として投入する可能性は考えられる。

 ファブレットは、もはや過去の遺産ではない。多くの難民の想いを折りたたみという形で世に送り出したPura Xは、その進化の系譜を現代の最新技術を持って「最も美しく描き出した令和版のファブレット」だと考える。

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