Appleの新型iPhoneは、毎年発売直後に「定価以上の買取価格」が話題になる。
これまで、最新機種を発売日に入手してそのまま買取業者へ持ち込むだけで、数万円単位の利益を得られるケースすら珍しくなかった。だが2025年に登場したiPhone 17シリーズは日本版iPhoneもアメリカと同じeSIM専用モデルへ移行したことで、この構図は根本から揺らぎ始めている。
本稿では、過去に業者がなぜ定価を上回る価格でiPhoneを買い取ることができたのか、そしてeSIM化が何を変えるのかを掘り下げて解説する。
最新iPhoneを定価以上で高額買取ができた背景には「海外向け買取」という特殊な事情
高値買取を行っている店舗、事業者の多くは日本国内向けに販売するのではなく、海外に輸出する場合がほとんどである。特に定価以上の買取を可能にした最大の理由は、日本と海外の販売価格の差である。
iPhoneは世界中で需要が高く、発売直後は多くの地域で供給が不足しがちだ。これはサムスン、ファーウェイなどの機種にはない特徴でもある。特に円安が急速に進んだ2020年代初頭、日本国内のApple Store販売価格は為替レートに対して相対的に割安となり、海外と比べても数万円単位で安いケースが頻発した。
結果、国内で定価購入した新品iPhoneをそのまま輸出すれば、海外での販売価格と為替差益を合わせて十分な利幅が確保できた。多くは香港や中国本土を経由して東南アジア、さらには中東・ロシアといった地域でも「最新のiPhone」が安く手に入ることから人気を集め、転売先として常に高需要があった。
香港で買取も行うストアに伺ったところ、日本版はリシュリンク(商品のすり替え、抜き取りをしての再梱包)された製品のリスクが少なく、専門業者を通じて買い上げることが多いという。また、物理シングルSIM仕様とはいえど諸外国には需要があるとのこと。
こうした背景から、買取業者は国内定価を数万円上回る金額を提示しても採算が取れ、個人ユーザーにとっても「即転売」ビジネスが成立していたわけだ。ちなみに海外では「開封済み新品」という概念はなく、封を切ったものは全て中古の扱いとなり価値が下落する。海外向けの買い取り業者が「新品未開封」という、文字だけ見たら当たり前の要素にこだわる理由はこの部分にある。


通信キャリアもスマートフォンの転売対策に躍起していたが、最も売れ筋のiPhoneが転売先で好まれない仕様になる外部要因で落ち着くことになるとは思ってもみなかったことだ。ちなみに、iPhone 17はeSIMのみの端末なるため、発着信確認とアクティベーションを行う関係で開封が必須になると考えられる。(抜け道はあると思いますが…)
iPhoneを定価超えで買取した業者の利益源は”端末売却益”ではなく”消費税還付”
海外輸出を前提とした定価以上の強気な価格設定の買取の裏には、税制面での仕組みも大きく寄与していた。日本では法人が商品を輸出した場合、仕入れ時に支払った消費税(現行10%)が還付される。
買取業者は新品iPhoneを仕入れる際に支払った消費税を、輸出手続きを完了させることで後に国から取り戻すことができる。この「輸出による消費税還付」があることで、仕入れ=Apple定価+消費税 。還付後=Apple定価相当 となり、表面上は定価を超える買取価格を提示しても、実質的には還付分が利益として残る仕組みだ。
たとえば14万円のiPhoneを15万円で買い取り、税抜14万円で売却したとしても、輸出後に1.4万円の消費税が戻れば利益を確保できる計算になる。この還付と海外再販価格の上昇を合わせ、業者は「定価を上回る高値買取」を可能にしていた。
一方でこの仕組みは常に資金繰りリスクを伴う。消費税の還付は輸出証明や税務申告を経た数か月後に行われるため、還付金が入る前に巨額の仕入れ資金を立て替える必要がある。過去には、キャッシュフローが追いつかず買取代金の支払いが遅延した業者が「支払い遅延のお詫び」としてリリースが出た事例もある。
iPhone発売直後は取引量が膨大になり、数千台単位の買取で数億円規模の資金を瞬時に動かさなければならない。税還付が遅れるなどを理由に、業者側もタイミング次第では資金ショートを起こす可能性のある極めてリスクの高いビジネスモデルでもあるのだ。
日本版iPhoneはeSIM専用になったことで、従来の転売ビジネスの前提が崩れる
この「高値買取」構図を根本から変える要因となったのが、eSIM専用化だ。Appleは米国で2022年モデルから物理SIMスロットを廃止しており、日本も2025年モデルで同じ仕様を採用した。問題は、世界の多くの国・地域では依然として物理SIMカードが主流であることだ。
特にこれまで日本版iPhoneの主要輸出先だった中国や香港はもとより、二次輸出先の東南アジア諸国、中東、ロシアでは、eSIM利用のインフラが未整備、もしくはユーザーの理解が進んでいない。また、中東でもUAE(アラブ首長国連邦)向けのiPhone 17シリーズは日本と同じeSIM仕様になっているため、高い金を出してあえて日本版を求めるとも考えにくい。
米国仕様のeSIM専用iPhoneが中国や香港の市場でほとんど流通していないのと同じく、日本版のeSIM専用iPhoneも海外では歓迎されないと考える。中国では非公式な改造で物理SIMスロットを付加する業者も存在したが、コストやリスクの高さから正規品より2万円ほど安くても主流にはなり得なかった。
この結果、海外輸出を前提とした為替差益、海外のプレミア価格、消費税還付 という三つの利益源のうち、最初の二つがほぼ機能しなくなった。iPhoneのeSIM専用化は、利便性の向上とあわせて転売ビジネスの根幹を直撃する仕様変更だったと言える。


以上を踏まえると、今後の日本版iPhoneは発売直後であっても定価を大きく上回る高値買取は期待しにくい。もちろん、国内中古市場や一部特殊ルートでの高価な取引は続くだろうが、かつてのように数万円単位のプレミアが当たり前という状況は終わりつつある。
中古スマホ市場全体にとっても、これは安定化につながる。発売直後の一時的な価格高騰が落ち着けば、消費者は「早く売らなければ損をする」という焦りから解放され、より落ち着いた取引が可能になるだろう。海外に流れる端末の数が減れば、国内流通在庫も確保することができるはずだ。
iPhoneが高額転売される環境は終焉か 今後は国内中古市場も安定傾向を期待
ここ数年、日本のiPhone高額買取を支えてきたのは、海外向け輸出による価格差 輸出時の消費税還付 という二本柱だった。しかしiPhone 17シリーズからのeSIM専用化によって、中国や中東など主要な輸出先で需要が急減するとみられる。
結果、定価以上の高額買取は発売初動の例外的なものとなり、iPhoneを短期的な投資・転売目的で購入する時代は転換点を迎えつつある。今後は、為替や一部地域向けの例外的な需要を除けば、より「通常の商品」として安定的に流通するiPhoneが当たり前の風景になっていくと見られる。
iPhoneはこれまで「使うためのデバイス」であると同時に、海外でも同一の価値を提供できることから一部では「資産」や「投資対象」としても扱われてきた。しかしeSIM化というハードウェアの変化を境に、その性格は大きく変わりつつある。最新機種を転売して利益を得るというビジネスモデルは、ひとつ変革の時を迎えたといえるだろう。
