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中国EV「BYD SEAL」を5000km走行!電気自動車の充電の現実と感じた不満

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 EVの充電は“待つ”ものなのか。それとも新しい移動体験の一部なのか。電気自動車(EV)を語るとき、必ず話題に上るのが「充電は面倒じゃないのか?」という疑問だ。

 筆者としてもBYD SEALに5000km乗ってきた中で、自宅充電と外出先の急速充電を繰り返し体験した。結論から言えば、ガソリン車の給油と単純比較することはできなかった。確かに、EVはガソリンスタンドで数分の給油を済ませてすぐ走り出せるわけではない。しかし自宅充電を活用すれば、外出先の急速充電は補助的な役割にとどめられる。日常的な走行距離が多くないなら、週に一度の充電すら必要ない場合もある。

 一方、長距離ドライブや旅行では急速充電が必要になり、場合によっては待ち時間も生じる。それでは実際に使ってみてどうだったのか。ここからは、5000km走った体験を基に、自宅充電と外出先の急速充電を比べながら見ていこう。前回の5000km走ったコスト「電気代」についてはこちらも合わせてチェックしてほしい。

目次

EVの自宅充電は寝ている間に完結!給油の手間が省ける

 EVの魅力は自宅充電できること。その最大の魅力は、「気がついたら充電されている」ことだ。これを一度体験すると、わざわざスタンドに立ち寄るという概念そのものが過去のものになる。筆者は普通充電(200V 3kW)を活用しており、深夜の安価な電力プランを選べば、1kWhあたり27円前後で済む。バッテリー残量が半分でも、寝ている間に朝には80%近くまで回復している。

 筆者の場合、通勤・買い物の移動を合わせて1日30〜40km走るが、充電頻度は2〜3日に一度、夜にケーブルを繋いでおくだけ。ガソリン車のように「残量が少ないからスタンドへ寄る」という発想を捨てられるのは大きい。特に都市部や郊外で日々の移動距離が30〜40km程度なら、週に数回の充電ですら不要になる。SEALクラスなら2週間は無充電でもこなせるだろう。

 さらに経済的なメリットも無視できない。SEALクラスの大容量バッテリー車両でも自宅充電はフル充電で2300円前後。基本料金込みでも3000円前後で530kmは問題なく走破できる。契約している電力プランに加え、太陽光発電や家庭用蓄電池があればもっとコストを抑えることも可能。自宅充電ができる環境ならEVは燃料費をぐっと抑えることができる。

自宅充電は時間も気にせず使えて便利だ

EVの急速充電は正直なところ「待つ」のが現実。不満やもどかしさを感じた場面も

 自宅充電ができれば柔軟性は高いとはいえ、外出先でのEVの急速充電において「待つ」時間はどうやっても避けられない。

EVの場合、たとえば長距離の出張帰りに残量20%の状態で目的地へ到着し、そのまま帰路につくには必ず充電が必要。ガソリン車のように「5分で完了」とはいかないため、予定がタイトな時や早く帰りたい時には待ち時間が正直もどかしい。

 場合によっては時間短縮のために早く充電できるスポットへ寄り道しなければならず、道中も100km/hを超える高速走行は電費を考えると控えたい。突発的な予定に際し、時間的な制約が生まれてしまう点はガソリン車と比較して不満に感じた。

あとは複数の車両で移動する場合や同乗者が複数いる場合も神経を使う。電費を考慮してペースやルート設定に気を使ったり、休憩場所や間隔もEVの充電タイミングに合わせなければならない場面も想定される。同乗者が必ずしもEVの特性や苦手なシーンを熟知しているわけでもない。

航続距離も伸び、充電速度も高速になったとはいえ、日本のインフラではまだEVは万能というわけではなく、色々と気を遣う、気を遣わせてしまう場面は出てくる。

このほかには旅程崩壊しやすいリスクがある。予定していた充電スポットが使えなかったり、様々な理由で出力が抑えられて思ったよりも充電できていないこともある。高速道路では充電器の故障リスクは少ない方だが、行楽シーズンの充電待ちや2口タイプの同時使用による出力低下が考えられる。ガソリン車よりも旅程崩壊するリスクが大きい点は事実だ。

筆者も深夜に充電器の故障で充電できず肝を冷やしたりした経験がある。バッテリーにマージンのある車両じゃなかったらどうなっていたことだか。

日頃から無料や格安で使える人気スポットでは、日常的に充電待ちの待機列が発生することもある。筆者も無料の急速充電器の前に2台が並び、充電開始まで仕事をしながら1時間ほど待つ場面もあった。

格安で使えるイオンの充電器などでは30分の時間を過ぎても利用者が車に戻らない、充電目的でもないのに充電器前に駐車する「充電トラブル」も起こっている。

 充電トラブルではイオンの急速充電器で充電が終わっているにも関わらず、1時間以上つなぎっぱなしの車両を見かけたことがある。電池残量に余裕があったのでそこまで気にしなかったが、EVユーザーの先輩には「イオンの洗礼」と教えられた。

むしろ2ヶ月ちょっと、5000kmの走行で充電器の故障やイオンの洗礼の実例に遭遇するくらいなので、バッテリーや急速充電性能で劣る車両だと車よりも「周りの環境」に不満を感じることだろう。

eMPの90kW充電器だが、このタイプは2口同時に使うと出力が半分に制限される

 そんな急速充電器だが、主に高速道路のサービスエリアや道の駅などに設置されている。ショッピングモールや市役所等の公共施設にもあるが、これらの充電スポットでは、CHAdeMO規格で30kW〜150kW級の急速充電器が利用できる。電池残量が少ないときにはありがたいが、仮にも150kW級の充電器を利用し、受け入れ性能が高いBYD SEALをもってしても30分で50〜60%程度の電気を蓄えるのが限界だ。

 テスラのように専用のスーパーチャージャーで急速充電できる例もあるが、250kWを出せるV3という仕様は全国に100カ所程度しかなく、このうちの半数が関東地区に集中している状況。本州日本海側と東北地方の全スーパーチャージャーを合算しても東京都内よりも少ない状態で地域差が激しく、道の駅や高速道路のサービスエリアには設置されていない。このため、地方ではBYD SEALよりも柔軟な運用が難しいことが実情だ。

BYD SEALに対応する最速クラスの充電器でも10%からフル充電には1時間かかる
充電スポットは悪い点ばかりでもない。田舎でも深夜に使えるものが多く、ガソリンスタンドよりも時間的に柔軟に使える点はありがたい

 また、急速充電器の中には充電カードを必要とするものもある。これがない場合は、支払いには都度クレジットカード情報を入力する必要がある。これはUIが充電カード利用前提の設計になっており、ビジター向けは使いにくいものもある。こうした細かな「待ち」「手間」は、EVの利便性を下げる要因になりうる。

 eMPネットワークでは現在、有料会員ではないビジター利用でも決済情報を事前登録しておけば、簡単に急速充電器を利用できる実証実験を行っている。むしろこれが普通だと思うので常態化してほしいものだ。

充電待ち時間をどう使うか。日常生活や旅程に「充電」をうまく組み込めるかでEVの満足度はかわる

 しかしこの“充電待ち”をどう過ごすかで、EVの充電における体験の質は大きく変わる。

 充電先がショッピングモールやその近隣なら買い物やカフェでの休憩、公園の近くならランニングや散歩といった軽い運動もできる。筆者は原稿の執筆、メールやToDoの処理、オンライン会議に充てたりと、充電中や待機中を“作業時間”として有効活用してきた。30分以上車を離れる用途なら、普通充電器や長時間利用できる急速充電器を使うとタイトに時間を気にしなくてよくなる。

 この出先で充電する時間を「奪われる時間」と見るか、「有効に使える時間」と見るか器EV充電の満足度は、実はこの意識の差に大きく左右されると実感した。ここで前者の認識が強く出てしまう方は、おそらくEVはライフスタイルに合わないと考える。

イオンなどの商業施設では、充電中に買い物を済ませたりすれば効率的だ

 一方で、目的地充電とは異なり、高速道路や長距離ドライブの際のサービスエリアや道の駅といった休憩施設での急速充電は、「休憩」とセットで考えればほとんど気にならなかった。

 人間の生理的な休憩サイクルは2〜3時間に1度。この間にトイレ休憩やコーヒーブレイクを15〜30分程度取るのは自然な流れだ。実際、私が新潟から幕張を往復した500kmの運転では、途中で15〜20分程度の休憩を往路、復路でそれぞれ1回取った。その間に車両も急速充電を行うだけで、余裕を持って走れた。

パーキングでの休憩中にクルマも一緒に充電してしまおう

 ここでポイントになるのは、車の充電計画を旅の計画に織り込むことだ。

 出発前に充電スポットを検索しておき「このサービスエリアで昼食をとりながら30分充電」「ここでトイレ休憩しつつ15分だけ充電」といった形でシミュレーションを行う。航続距離の長い車両の場合はこの手のシュミレーションは大雑把でもいいが、バッテリー容量の少ない車両では必須と考える。これをしておくと走行中に「そろそろ充電しないと」という不安はかなり軽減された。

 逆にこのような事前準備が面倒で、突発的に数百キロ先の目的地に向かい、行き当たりばったりのような旅を好むのであれば、EVの充電行為は行動の枷になると感じた。充電と休憩を組み合わせられないと、明確に向き不向きがみえてくる。

 このような計画を立てても充電待ちで余計に時間がかかったり、急速充電器が故障等を理由に使えなかったりすることもある。また、急速充電器の特性(ブースト型、蓄電池型)や施設のデマンドによる出力制限。車側も長距離走行時の熱ダレ、CHAdeMOの相性問題といった要素で想定以上に電力を蓄えられない場合もある。

 筆者も故障中の充電器にあたって肝を冷やした経験があるので、現状の充電インフラでは、ガソリン車よりも「なにかあったとき」のリカバーが効きにくい点は難点だと思う。

 EVの充電で使う休憩施設も進化している。最近のサービスエリアや道の駅は、ただの休憩所にとどまらず、地元食材を使ったレストランや、地域の名産品が並ぶアンテナショップ、温浴施設や足湯、なかには遊具などのキッズスペースまで揃う場所も多い。家族連れであれば子どもを遊ばせながら大人はコーヒーを楽しむ、家族でご当地グルメを堪能する、足湯でリラックスするなど、充電を「小さな旅行体験」に変えられる。

 実際、筆者も長野方面のドライブで名物の蕎麦を味わいながら休憩していたら、ちょうど30分程度の時間だった。車も人間にも同時にエネルギーを補給できたというわけだ。

車の充電中にそばを頂いたりした

 ビジネス利用でも同様だ。リモートワークが広がった今、PCとスマホがあればどこでも仕事はできる。サービスエリアのWi-Fiやテザリングを活用し、メール処理や資料作成を行えば、充電はむしろ強制的に仕事に集中できる時間になる。

 筆者も移動中の急ぎの原稿を、車内や休憩施設で一気に仕上げたことが何度もある。電気自動車は充電することを考慮してか車両自体も快適性を重視しており、遮音性の高い車内で集中してこなせた。

車の充電中は仕事に割り当てても良い

 このように、遠出先の休憩施設での充電は単なる“給電作業”から、休憩施設でその地域の特色に触れ、旅の満足度を高める要素に変わったと価値観を改めた。計画的に「休憩=充電」と発想を切り替えられるかどうかが、EV旅行の充実度を左右すると言っていいだろう。

充電中の「待ち時間」を価値ある時間として使えるかが、EVの満足度を大きく左右する

 EVに乗りはじめ、5000kmを走って感じたのは、充電行為における満足度を左右するのは、充電そのものの時間ではなく、充電中の時間をどう使うかだということだ。そのような意味ではEVは「充電=作業」ではなく「時間の使い方」を問われる乗り物だと感じた。

 自宅充電は「寝ている間に満タン」という圧倒的な省力化をもたらし、外出先での急速充電は日常の買い物、旅先の休憩に組み込めば大きなストレスにならない。逆に、計画なく走って不必要な場面で充電を余儀なくされると、大きな時間ロスとなりEVの魅力は一気に色褪せる。充電器の仕様や特性もある程度頭に入れておかなければならないなど、うまく使うにはリテラシーも求められると痛感した。

 EVを選ぶということは、車にエネルギーを入れる時間の概念を変えることに等しい。

スマホのように日常のリズムに充電を組み込み、外出先の充電はアクティビティや買い物、筆者のように前項執筆やオンライン会議などの業務空間として過ごす。これができる人にとって、EVの充電は「面倒な作業」「無駄な時間」ではなく「必要な時間のついでに行うもの」へと変わるだろう。

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