多種多様なワイヤレスイヤホンが登場しているが、その最上位に「有線イヤホンをワイヤレス化」するアダプタが存在する。その中でも「最強」と名高いiFi audio GO podをレビューしてみることにする。
これが完全ワイヤレスの最高音質。iFi audio GO podをチェック!
今回のiFi audio GO podは有線イヤホンをワイヤレス化するアダプタだ。ワイヤレスイヤホンでもオーディオ的な高音質志向のものはいくつか登場しているが、あまり数は多くない。
一方でリケーブル可能なイヤホンをワイヤレス化してしまおう!という考えの製品が今回のようなアダプタだ。著名なものならFiio UTWS5やShureのRMCT TW2がある。
Shureの製品は自社商品とバンドルさせることも視野に入れているが、基本的には手持ちのイヤホンと組み合わせて利用する。iFi audio GO podはどちらかと言えば「リケーブル」などに近い製品だ。

パッケージはシンプルだ


本体ケースはカスタムIEMを収容できるよう大型。一般的なワイヤレスイヤホンの倍以上のサイズだ。


イヤホンケースにはLEDライトを備え、お気に入りのイヤホンをライトアップできる

本体はイヤーループとアンプ部で構成される。通常のワイヤレスイヤホンと比較すると大型だ
「耳に音楽プレイヤーを乗せる」ワイヤレスとは思えない高音質サウンドに驚く
超高音質仕様は本体の構成を見ると明らかだ。本機種はBluetoothチップにクアルコムのQCC5144を採用。LDACはもちろん、aptX Adaptiveにも対応し、最新のSnapdragon Soundにも準拠する仕様だ。
一般的な機種では本チップ内のDACとアンプを用いてワンチップで完結するが、iFi audio GO podではこのチップをBluetooth信号の処理のみに使用する贅沢仕様だ。
さて、肝心のD/A変換はどうするのか。ここでDACはシーラス・ロジック製のものを採用する。型番は公表されていないが、MasterHIFIを冠するものが採用されている。モバイル向けなどを加味するとCS43131になるのではないかと思われる。数万円クラスのスティック型DACや音楽プレイヤーに採用される製品だ。
一方でこのチップもあくまでD/A変換のみに使用する。この手のチップにはアンプも備わっているが、ここでも信号処理に特化させた贅沢仕様だ。
この後にアンプ回路が入ってくる。設計思想が超高感度なIEM(イヤモニ)でも歪みなくドライブすることを目的としており、バランス回路としてノイズ対策も念入りに行ったという。
そんなアンプは実に出力が32Ωで最大120mW、電源電圧は300Ω時で最大4Vまで昇圧するという構成だ。計算上は32Ω時で1.96Vrmsとなり、この数字はもはやBluetoothアダプタというよりも、音楽プレイヤーやヘッドホンアンプに近い構成だ。
近い商品でAK4432を採用するFiio UTWS5が32Ω時で33mW以上としているので、実に3倍以上の出力なのだ。
このほかにも接続したイヤホンのインピーダンスに合わせてGO pod側で16Ω以下/16Ω~32Ω/32Ω~64Ω/64Ω~300Ωの4段階に調整される。理論上はインピーダンスが100ΩのEtimotic Resarch ER-4Sや150ΩのRHA CL1にも対応できるびっくりな仕様だ。

箱にも書かれたサウンドハードウェア。半分DAPのような構成だ
iFi audio GO podの対応コーデックは、SBC/AAC/aptX/aptX Adaptive/LDACに対応している。高音質をアピールする商品なだけあってコーデックは充実だ。
今回の試聴環境はスマートフォンにソニーのXperia 1 Vを採用し、LDACの環境で使用する。ストリーミング環境もスマホ単独で24bit/96kHzの再生が可能で、高音質なハードウェアを備える機種だ。また、接続した機種はMOONDROPの梅-MAYを使用する。
実際に聴いてみると「梅-MAYがしっかり鳴っている」ことに驚く。ゲインを稼げない廉価なプレイヤーに接続した際の「音の軽さ」はなく、有線環境とも大きく変わらないサウンドを体験できる。
正直、完全ワイヤレス化アダプタの音ではなく、ある程度のスペックを持つ音楽プレイヤーに有線で接続したときのような音がする。ワイヤレスイヤホンは「音に限界がある」という通説をぶち壊してくれる製品なのだ。似た機種としてはFiio UTWS5があるが、これよりもふたつほどグレードが上の製品に感じる。
アダプタのサウンドとしてはやや横に音像が広がる印象があるものの、特有のクセは少ないものと考える。一般的なイヤホンであればポテンシャルを引き出すことができるだろう。
このほかにUltimate Ears UE18+ Pro(6BA)や、Victor HA-FW10000(ダイナミック型)でも試してみた。どちらもしっかりドライブでき、再生機器の性能不足感をほとんど感じることはなかった。また、ホワイトノイズもほとんどなく、感度の高いイヤモニでも音楽に没頭できた。
いろいろと試してみて、筆者的に相性の良かったものはQoAのMojitoやWestone UM Pro 50といったややウォームなチューニングの機種と組み合わせると相性が良かった印象だ。HA-FW10000やFW1500といったビクターのWoodブランドの機種も相性が良かった。
交換式イヤーループを採用!イヤホンのコネクタを選ばない神仕様。
さて、音質についてはこの辺りにして、ここからは音以外の部分について書いてみる。iFi audio GO podの特徴は何といっても、交換式イヤーループで多くのイヤホンと接続できる点だ。
イヤホンのコネクタは大きくMMCXと2Pinが主流だ。それ以外にも各社の独自規格のほか、MMCXでも独自のカスタマイズが施されているものもある。
そのため、一般にアダプタ側は全てに対応できない。ShureのアダプタはMMCXのみ、Fiio UTWS5はMMCXと2Pinのバリエーションがあるが、それぞれ型番が異なる。つまるところ複数のイヤホンで使いまわしが難しい存在なのだ。
その辺りはifi Audio はよくご理解されており、アンプ部とイヤーループが分離する構造を採用。標準セットでMMCXと2Pinのイヤーループを付属してくれる。

本体とイヤーループが分離する構造のため、イヤホン側の端子はあまり気にしなくて良い
加えて、別売ながらPentaconn earコネクタ、A2DCコネクタ、T2コネクタのイヤーループも販売。当初のFitEarバンドル版にはFitEar 2Pinのものも存在するなど、市場に出ている9割のイヤホンは利用できそうだ。

別売でPentaconnのイヤーループも販売されている

MMCXは若干出っ張った形状をしている。これによって一般的なケーブルが装着できないゼンハイザーのIE900やIE600にも装着できる。よく考えて作りこまれている。
両耳のタッチセンサーで音量の調節が可能だ。この機種は機器ボリュームが独立して存在するため、基本はスマホ本体の音量最大にし、GO pod側で調整することが理想だ。
意外にも通話音質は良好だ。通話時は2つのマイクに加えて、ノイズ低減処理も行われる。ここはクアルコムの最新チップセットの恩恵を大きく受けている部分だ。

本体の銀色の意匠がタッチセンサーになっている
フィット感については耳にかけるタイプだが、シリコン素材を採用しているのか付け心地はよい。
バッテリー持ちは接続するイヤホンによって異なる。一般にマルチBAなどの鳴らすユニットが増えるほど同じ音量でも消費電力が大きくなるため、電池持ちは悪くなる。試しに1DD+平面ドライバーのMOONDROP 梅-MAYでは6時間半、6BAのQoA Mojitoを接続した場合は、概ね6時間ほど連続で動作させることができた。
また、ケースは本体を3〜4回ほどフル充電できる。この辺りも使用するイヤホンによって変わってくる。ケースはワイヤレス充電にも対応する。
完全ワイヤレスの最高峰。一度体験したら戻れないサウンド
今回のiFi audio GOpodだが、ワイヤレスアダプタながら音質面に妥協は一切なく、アダプタというよりは「耳に音楽プレイヤーを乗せる」という表現が適切かもしれない。接続するイヤホンによるが、ここまで上質なサウンドを完全ワイヤレスで体験できることがすごいとしか評価できない。
一般に鳴らすのが難しいと評されるマルチBAはもちろん、ハイブリッド構成やトライブリッド構成のイヤホンでもしっかり対応できる。
正直、この手の商品は「手持ちのイヤホンをワイヤレス化する」が前提のニッチかつ、マニア向けの製品だ。だからこそ利便性を確保しつつ、高音質仕様に振り切った仕様は評価したい。
HIFIMAN Svanar Wirelessといった超高音質仕様の完全ワイヤレスイヤホンも存在するが、こちらはひとつのオーディオシステムとして完結する。既存のイヤホンとの組み合わせが必要ない路線が異なる製品だ。そのような意味ではGO podはある意味でDAPと同義であり、オーディオ的な楽しさも備える製品だ。
ケースは大型でポケットに収まるとは言えないが、もともとカスタムIEMなどを収容できるサイズとして設計したという。大柄なイヤホンでもしっかり対応できる点はありがたい。また、ケース自体はワイヤレス充電にも対応するなど、使い勝手は悪くない。ただ、でかいことが少々ネックだろう。
一方で高性能かつ、拡張性も優れるとなれば価格も決して安くない。GO podの価格は実売で約6万円と並みのワイヤレスイヤホンよりも高価だ。並みの音楽プレイヤーや外付けDACも購入視野に入ってくる。
最後に、筆者としてはスマホ単機でコードレスを体験したい方にはGO podはお勧めだ。音楽プレイヤーは高音質でも、ストリーミングサービスを使用する際には非力なプロセッサでストレスが溜まる。
外付けDACはスマホ給電の関係から、スマホ本体の電池持ちに難があるものも少なくない。どちらの方法も有線イヤホンとして利用するので、ケーブルの煩わしさは付きまとう。
一方でGO podは外付けDACを装着したスマホとほぼ同等のクオリティをフルワイヤレスで獲得できる。Bluetooth接続のため、スマホのバッテリーを大きく消費しないこともプラス評価だ。

高音質なのはとてもいいことです
基本的には自宅に使っていないイヤホンが転がっている方向けの製品だが、これからイヤホンの沼に落ちる予定の方はもちろん、一度引退した方にも是非使ってみてほしい製品だ。興味がある方はぜひ検討してみてはいかがだろうか。