イヤホン300本以上を聴いてきたライターのはやぽんです。今回は、NICEHCKのニューフラグシップ「EBX25Ti」を提供いただきました。ハウジングにチタンを使ったイントラコンカ型、14.2mmベリリウムメッキ振動板というハイエンド構成。その音を、じっくりと確かめてみました。
NICEHCKのニューモデルは5万円クラス。最上位イントラコンカ型イヤホン
中国のオーディオブランド「NICEHCK」はこれまでにも、数々の意欲作を世に送り出してきた。近年ではHIMARAYA、NX8といった3万円以上の価格帯の商品も展開するなど、幅広く手掛けている。
今回レビューするEBX25Tiは、同社が近年力を入れているイントラコンカ(インナーイヤー)型のイヤホン。AirPodsなどが代表例に挙がる機種群だが、その中でも5万円台というハイエンド機種であり、同価格帯では異彩を放つ存在だ。


5万円クラスの製品なだけあって、パッケージは豪華だ
EBX25Tiは航空機グレードのチタン合金ハウジングを採用。繊細な調整を経て、カバーの孔径の大きさを最適化させたことでバランスよい音質を実現した。本機種では古典的なオープン式の構造を採用しており、音の繊細さとダイナミックな表現力を高めると同時に、低音の豊かさとふくらみを実現したとしている。
ドライバーには14.2mmベリリウムメッキダイナミックドライバーを採用。強力なマグネットを採用することで、レスポンスを向上させている。
接続端子はMMCX規格。付属ケーブルは高純度6N単結晶銅と銀メッキ銅のミックスケーブルで、柔らかく取り回しも良好。プラグは3.5mmと4.4mmが選択可能だが、ケーブルごと変わる仕様なので、購入時に確認しておこう。



EBX25Ti手に取ってまず感じたのは、その圧倒的な質感のよさ。艶消し塗装のチタンハウジングは、一見光の当たり方で冷たくもあり、暖かくも見える。単なる素材の選定ではなく「高級機にふさわしい外観」に仕上げている。機能面に特化した無骨なデザインがこれまたよい。

付属品はフォームカバー、ウレタンキャップ。MMCX取り外し治具、キャリングケースなど一通り揃っており、内容としても不足なし
イントラコンカ型らしい開放的なサウンド。高域の表現は魅力的
本機種のようなハイエンドのイントラコンカ型のイヤホンは「空気感のあるサウンド」を特徴とするものが多い。EBX25Tiはそこにさらなる空間の広がりと解像度を加えてきた。試聴にはFiio Q7を用い、4.4mmバランスで接続。使用楽曲は以下のとおり。
「Holiday∞Holiday」 / スリーズブーケ
「TRACER」 / Benjamin
「もうどうなってもいいや」 / 星街すいせい
「スロウリグレット」 / 田所あずさ
まず驚かされたのは、サウンドステージの奥行きと広がりだ。イントラコンカ型だからということもあって、非常に開放感溢れるサウンドに仕上がっている。イントラコンカ型でここまで音像定位が正確なのものは少なく、左右の広がりだけでなく、前後の立体感もうまく表現している。
低域はタイトで主張しないイントラコンカ型らしさを感じる。それでもベースラインやドラムのアタックはしっかりと感じられ、量感的に物足りないよりも「整っている」という印象。これは14.2mmの大口径ドライバーと、開放構造のバランスがうまく噛み合った結果でしょう。
特筆すべきは中高域の描写力の高さ。「Holiday∞Holiday」では複数ボーカルの重なりが明確に聴き分けられ、それぞれの息づかいやニュアンスがしっかりと伝わってくる。特にサ行の抜けが良く、刺さりがないのは、イントラコンカ型でも上位モデルなだけはある。
「もうどうなってもいいや」のような電子音が多い曲でも、音の輪郭がぼやけず、キレのある描写をみせてくれる。比較的情報量が多いにもかかわらず、耳に過度に刺さらないチューニングが施されており、うるささはあまり感じられない。
高級イントラコンカ型イヤホンとして存在感を示す出来。好きな人には絶対ささる魅力的なサウンド
EBX25Tiは、万人に向けた“完璧なバランス型”というよりも、スイートスポットを絞った「ある種の潔さ」を持ったイヤホンと感じた。イントラコンカ型なので遮音性は皆無に近く、もちろん音漏れも気になるレベル。電車の中でも気になる大きさなので、ボリュームを上げて外で使うのはおすすめできない。
方式的にカナル型のような低域が出ないため、EDMなどのジャンルでは物足りなさを感じる場面もある。楽曲や環境によっては「もう少し低域が欲しい」と感じることだ。その欠点と引き換えに得られるのが、唯一無二の開放感と高域の表現力だ。
筆者としてもこのクラスのイントラコンカ型を多く聴いた経験がないので参考になるとは言いにくいが、今まで聴いた中ではトップに君臨するサウンドクオリティと感じる。

NICEHCK EBX25Tiは、イントラコンカ型という従来型の枠組みに、最新の材料と音響設計を取り入れた野心作。正直なところ、万人向けではなく、人を選ぶチューニングに仕上がっている。
好みこそ分かれるが、音の広がりや細部の描写を求めるのリスナーにとっては、これ以上ない選択肢になりうるでしょう。静かな場所で音楽とじっくり向き合う。そんな時間を楽しめる人にこそ、EBX25Tiは真価を見せてくれるイヤホンだと感じた。
定価は約5万円前後。決して安くはありませんが、価格相応。刺さる人には価格以上の体験をもたらしてくれる、そんな一本だ。
提供:NICEHCK