シャープから最新スマートフォン「AQUOS R9」が7月に発売された。上位モデル顔負けの進化を遂げたライカ監修カメラと妥協のないエンタメ性能が売りのハイエンドスマホをレビューしていきましょう。
超広角も備えたライカ監修カメラ。写真も綺麗に撮れるAQUOS R9
AQUOS R9はカメラ性能を高めている。メインカメラには有効画素数が5030万画素 1/1.55型のイメージセンサーを採用した。これはオムニビジョン製のOV50Aとなっており、決して最新のものではない。
過去製品にも使われているため、同社にはチューニングのノウハウが備わっていると考える。超広角カメラも5030万画素のものを採用するなど、従来機種よりアップデートされている。
また、AQUOS Rシリーズとしては久方ぶりにメインカメラに光学式の手ぶれ補正が備わる。ライカ監修モデルとしては初の採用だ。これによって夜景などがより撮影しやすくなった。カメラのチューニングはAQUOS R8 proに引き続き、独ライカカメラ社が監修している。スマホメーカーとの共同チューニングではXiaomiと並ぶ形だ。
レンズはAQUOS R8と同様に35mm換算23mmの標準カメラと、換算13mmの超広角カメラを備える。従来の1型センサー採用機とは異なり、普通のスマホと同じように利用できる。レンズはライカの「ヘクトール」を冠するものとなり、コーティングが一新されるなど着実に改善されている。そんなAQUOS R9の作例は以下の通り。

カメラ部にHEKTORのロゴが備わる。配置的には真ん中寄りのカメラがメインカメラだ









AQUOS R9どちらかというと、ライカを冠するスマホなだけあって、非常に良い質感の絵が出るスマホの印象だ。従来よりもコントラストが強めで、チューニングはXiaomiの「Leica Authentic」やHuaweiの「Leica VIVID」に近い。
解像感なども昨年のAQUOS R8に比べ、大きく進化したことがうかがえる。センサーサイズはAQUOS R8 proからは小さくなったものの、副次的な効果で「寄れない」「撮影しにくい」といった要素はなくなり、普通に撮影しやすい機種に仕上がった。
正直、「この写真をシャープのスマホで撮りました!」と言ったところで数年前の筆者はまず信じないことだろう。思った以上の出来で驚くばかりだ。




AQUOS R9の夜景モードは、手持ちモードではだいたいシャッタースピードが1秒ほど、三脚モードでは4〜32秒をシーンに応じてオートで切り替わる。また、三脚モードは自動で切り替わるものになっており、これはGoogle Pixelなどと同じ挙動だ。

AQUOS R9は夜景モードに「花火モード」を備えている。このモードでは夜景撮影時に連写が可能となっている
AQUOS R9はズーム性能は最大8倍だ。実は従来の1型センサー機よりもズーム倍率は向上している。デジタルズームで換算184mm相当となるが、さすがにディティールも潰れる。

AQUOS R9 8倍望遠。補正は弱めなので3倍望遠くらいまでが実用域だ
カメラ周りの惜しい点はふたつある。ひとつは、料理の写真を「料理モード」で撮影すると、照明の環境によっては暖色よりに引っ張られることがみられた。この辺りはスペクトルセンサーを採用したAQUOS R8 proのほうが打率が高く、撮影シーンを選ばない点では優位だった。
もうひとつは、撮影後の処理レスポンスがあまり良くない点だ。撮影してギャラリーをチェックすると「処理中」と表示される時間が長いのだ。特に夜景撮影時や連写した際は顕著に現れる。これは後述するプロセッサが最上位のSnapdragon 8シリーズから、ひとつ下の7シリーズへ変更されたことが要因だ。ベンチマークスコア的には大きな差はないが、キャッシュサイズやメモリバス幅などで差があるものと考える。
綺麗に進化した画面がうれしい。イヤホンジャック廃止なもの、必要な性能は備えたAQUOS R9
AQUOS R9はライカ監修のカメラ性能に注目しがちだが、進化した画面性能なども大きく評価したい。ざっとスペックを書くと以下の通り。
SoC:Qualcomm Snapdragon 7+ Gen 3
メモリ:12GB
ストレージ:256GB
ディスプレイ:6.5型 FHD+ Pro IGZO OLED
カメラ
リアカメラ
メイン:5030万画素 1/1.55型センサー
超広角:5030万画素
フロント:5030万画素
バッテリー:5000mA/h
急速充電対応
IP6X/IPX5/8 防水防塵、おサイフケータイ
サイズ:156mm × 75mm × 8.9mm
重量:195g
AQUOS R9を見て、まず目が行く異色の配列をした背面カメラだ。楕円形のカメラバンプ内に斜めに配置されたカメラは、どこか違和感というか「不安」を感じさせる。この独特の端末の意匠はデザイナーの三宅一茂氏の立ち上げたデザイン事務所「miyake design」が担当。端末の意匠については、以下に説明文を引用する。
毎日常に身近にあるスマートフォン。 服や手帳のように身の回りにあるお気に入りのもののような存在にできないかと考えました。
直線と自由曲線のコントラスト、あえて縦横を揃えないレイアウト、それでいて使いやすく高いスペック、その良い違和感は感覚的でどこか趣が感じられます。 人が手に持つことで完成する、そんなデザインです。
miyake designホームページより
確かに「良い違和感」は非常にキャッチーな見た目になっており、今まで実用性重視で没個性だったAQUOSに大きなアクセントを加えた。製品デザインの大胆な変更は、日本のみならず台湾や東南アジアをはじめとした海外展開を見越したものと考える。

確かにカメラ周りは狙った通りの「違和感」を感じるデザイン
ディスプレイには6.5型 FHD+解像度のPro IGZO OLEDを採用しているが、こちらの性能が旧機種と比較すると飛躍的に向上している。従来機種でみられた低輝度時の不安定さ、画面縁付近の光漏れが全く見られないのだ。
品質面でも旧機種は異常輝点や色ムラの確率が多く筆者の個体でも見られたが、AQUOS R9ではこのようなものを一切感じない。色味もある種のクセと言われた部分が改善され、普通に見やすいディスプレイへ進化した。
もちろん、リッチカラーテクノロジーモバイルや1〜240Hzの可変リフレッシュレートにも対応する。画面も全白輝度で1500ニト、ピーク輝度で2000ニトと明るい画面だ。

画面はフラットディスプレイ。画面の品質そのものがかなり向上した
指紋センサーは電源ボタン一体型のものとなる。認証感度も良好だが、電源ボタンの位置がやや下側にあるため、実際に量販店などで実機を持って検討してほしい。


電源ボタンは若干下側にある
プロセッサはアッパーミドルのSnapdragon 7+ Gen 3を搭載。日本向けでは初採用のチップだが、昨年のフラグシップに当たるSnapdragon 8 Gen 2に迫るベンチマークスコアを計測するなど比較的高性能だ。
その一方で、モデム性能などを加味したトータルの性能ではSnapdragon 8 Gen 2には劣る。前述の通り、カメラの撮影後の処理の時間で前作との差を感じることができる。どちらかといえば、コストを抑えつつも、高い性能を求めるスマートフォン向けのチップセットだ。
余談だが、似た名前でSnapdragon 7 Gen 3というものがあるが、こちらは全く異なるチップセットであるため、スマートフォンを選択する際は注意してほしい。

プロセッサはSnapdragon 7+ Gen 3を採用する
スペック面は今年のハイエンド機らしいところはしっかり押さえ、メモリも12GB、ストレージは256GB+micro SDカードと必要十分だ。シリーズ初の仮想メモリ機能も備えている。
冷却性能はAQUOSシリーズ初のベイパーチャンバーを採用。端末の冷却性能は大きく向上しており、ゲームなどもより長時間快適に利用できるとした。昨年、AQUOS R8シリーズにて採用された「特許を出願中」のカメラリングを使った冷却方式は本機種には引き継がれなかった。
AQUOS R9を使ってみると、動作にストレスは感じない。Snapdragon 7+ Gen 3は高性能ながら発熱も少なく、ベイパーチャンバーの採用もあってよほどのことをしない限り発熱で「熱い」と感じることは少ない印象だ。ゲームなどに関しては熱落ちという現象はほとんどない。原神の最高画質/60fpsモードで20分ほど利用しても処理落ち等はなく、快適に遊ぶことができた。

原神も最高画質で動作する


学園アイドルマスターも最高画質で動く
AQUOS R9では本体スピーカーにボックス構造を採用。これによってスピーカーの音はかなり良くなっている。力を入れている中国メーカーのハイエンド機には劣るが、「鳴っていただけ」と評価された過去モデルからしっかり改善されている。
また、ワイヤレスのサウンドも充実しており、最新規格のaptX Losslessにも対応している。LDACに加えてSnapdragon Sound、LE Audioにも対応するため、ワイヤレスイヤホンは柔軟に選ぶことができる。今作は、同社の端末としてはAQUOS Zero 2以来のイヤホンジャックが廃止された機種のため、ワイヤレスイヤホンを積極的に使っていきたい。

AQUOSのハイエンド機としては珍しくイヤホンジャックが廃止された
バッテリーも5000mAhと大容量のものが採用されており、急速充電にも対応する。一方で、支持の多いワイヤレス充電には非対応だ。電池持ちはAQUOSらしく長持ちで、軽く利用した限りでは概ね8時間は満足に利用することができた。ゲームなどを中心に行うと概ね4時間前後だった。
これに加えて、バッテリーいたわり機能の「インテリジェントチャージ」も採用している。この他にも画面点灯時は給電しない、バッテリー満充電を90%に抑えると言ったバッテリーを劣化させにくい工夫がされている。
5年間のアップデート、microSDカード対応!AQUOS R9は安心して使える
AQUOS R9では3回のOSアップデートと最長5年のセキュリティアップデートという、長期アップデートを保証する機種となった。本体はMIL-STD810Gを16項目で取得するなど、ライカ監修スマホの中では抜群の耐久性も獲得している。近年のスマートフォンは長期利用する方も多く、ソフトウェア、ハードウェア共に強化されたことは安心して利用できる要素だ。
また、綺麗な写真を撮れることを売りにしている機種でも、micro SDカードに対応している機種は極めて少ない。たくさんの思い出を保存しても簡単に容量を増やしたり、ストレージを切り替えることができる点は大きな差別化ポイントだ。

micro SDカードが利用できる
AQUOS R9は前作のAQUOS R8やR8 proで感じた惜しいところを潰して、着実に進化を遂げた機種と評価できる。カメラに関しては今まで以上にチューニングを追い込み、光学式手ブレ補正の採用でより撮影しやすくなった。
最新プロセッサによって高速オートフォーカスや夜景モードでの連写などを実現している。加えて、クセありだった最短撮影距離によるバーコードの読取などは以前に比べてかなり読取りやすい。マニュアル設定のプリセットも可能になったので、再度同じ設定で撮影する時にも、数値を調整する必要もない。
また、キャリア版、オープンマーケット版の仕様も近く、それぞれ他社の電波もしっかり使える仕様だ。物理とeSIMのデュアルSIM運用(DSDV)にも対応しているため、eSIM側にはサブ回線でpovo 2.0などを使用することも可能になった。
カメラや画面は進化。安心して使える要素も備えて10万円の価格も納得のAQUOS R9
世界的に評価の高いカメラスマホが相手でも、対等レベルで比較対象にできる性能をAQUOS R9は手にしたと評価できる。日本で販売されているスマホで、このクラスのカメラ性能を持っている機種は少数だ。
昨年のAQUOS R8 proの難点だった高価な価格もプロセッサのグレードを落としたり、ハードウェア構成をある程度引き継いだことで、抑えることに成功した。オープンマーケット版(SIMフリー版)は10万円前後で、販路によっては10万円を切る価格を実現している。
通信キャリアも比較的安価に抑えており、ドコモ版は11万7040円、ソフトバンク版が12万4560円と従来よりも価格は抑えており、購入しやすくなった。
筆者としては、AQUOS R9は満を持して「カメラスマホ」と呼べる機種であることに揺らぎはない。簡単にキレイに撮れるカメラと、FeliCaやミルスペックの耐久性。micro SDカードが利用できるといった普段使いのバランスにこだわる。そんなこだわりのある層にむけたスマートフォンだと感じた次第だ。

AQUOS R9はカメラ性能に優れるオールラウンダーなスマホに進化した
そんなAQUOS R9というスマートフォンは旧機種のAQUOS R3やR5Gをお持ちの方はもちろん、AQUOS R6を使っている方をはじめ、他社のカメラ特化のスマホをお持ちの方が乗り換えても納得できる商品だ。
日本では「カメラスマホ」としての地位を確立しつつあるシャープのハイエンドスマホ。ライカとコラボして4年目となったこの機種以降も今後も目が離せない。